2012年05月01日

自賠責保険の後遺障害等級が判決で重く変更された

 最近は、私が被害者側の代理人を務めた判決が次々と出されている。
 今回紹介するのは、平成22年の6月に後遺障害等級認定の手続きを依頼された高木さん(ただし、仮名です。)に関する事件である。
 高木さんは、ある民間企業に勤務をされていたが、平成21年の春に、所用があって会社から顧客のもとに行こうとして徒歩で外出した。その際、前方から走ってきた車に正面から衝突された(その車の運転者は前方をまったく見ていなかった。)。 
 高木さんには、その事故による怪我のために、左上肢に後遺症が残った。また、顔に醜状も残った。そこで、当事務所に対し、自賠責保険の被害者請求を行い、後遺障害の等級認定を依頼された。
 私はその依頼を受諾し、さっそく自賠責保険に対し、被害者請求を行った。自賠責保険は、高木さんの後遺障害について、外貌醜状の点は「男子の外貌に著しい醜状を残すもの」として12級14号を認め、左上肢の神経症状については「局部に神経症状を残すもの」として14級9号を認め、これらを併合した12級と判断した。
 しかし、私はこの自賠責保険の認定には不服があった。そこで、平成23年の春に名古屋地裁に提訴し、争った。原告である高木さんの主張とは、外貌醜状の点は12級14号でかまわない、しかし、左上肢の神経症状は、12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当するというべきであり、これらを合わせると、併合11級になるという主張であった。
 これに対し、加害者である被告は、たとえ男性である原告(高木さん)に外貌醜状があったとしてもそのことによって労働能力は低下しないという主張を行った。また、左上肢の神経症状は14級9号にすぎないと主張して争った。
 判決は、高木さんの外貌醜状は、定年後の再就職等に当たって不利益を生じさせる蓋然性が高いとして労働能力の喪失を認めた。また、左上肢の神経症状については、12級13号に相当する後遺障害であると認めた。そして、これらを合わせると、併合11級になると認め、労働能力喪失率は20パーセントであると認定した。
 従来から、男性の12級14号の外貌醜状については、逸失利益を正面から認める判例はほとんどなかった。今回、これを認めたことは大いに意義のあることであった。
 なお、外貌醜状に関する男女間の障害等級に差別的取扱いがあるとして違憲判決を出した京都地裁の判決が平成22年6月10日に確定したことを受けて、自賠責保険は、平成22年6月10日以降に発生した交通事故については、男性の外貌に著しい醜状を残すものについて、女性と同じく障害等級を7級とするよう改正を行った(なお、男性の外貌に相当程度の醜状を残すものは9級に、男性の外貌に醜状を残すものは12級とされた。)。
 京都地裁の判決が出るまで、男性の外貌醜状は直ちに労働能力の喪失には結びつかないという議論ないし認識が当たり前のように了解されていた。そして、これに対し、「それはおかしい」とする反対論が強く唱えられることはなかった。正に、「目からうろこが落ちる」とはこのようなことであろう。
 いずれにせよ、高木氏が裁判を行ったことによって、自賠責保険による不当な後遺障害等級認定が覆されたのである。私は、過去に何回も同じような経験をしているが、今回も私が追求した結果が裁判所によって示された(裁判は確定している。)。

2012年04月16日

賠償金額が2.4倍になった

 平成22年の秋に依頼を受けた交通事故訴訟事件の判決がこのたび確定し、賠償金額が、損保会社の最終提示額の2.4倍になった。
 この事件は、公務員である山本さん(ただし、仮名である。)が、国道をバイクで走行中に、交差する道路からわきみ運転をしてきた男性の車と衝突して、大けがを負い、自賠責保険によって障害等級7級の認定を受けたという事件であった。
 当初、損保会社は、賠償金として988万円という非常識ともいえる低額を提示した。これに対し、山本氏が自分で調べたところ、その金額は極めて低額であることが分かり、金額の増額を求めた。すると、損保会社の担当者は、最終提示額として2898万円を示した。
 しかし、それ以上の増額は困難であるとして交渉は進まず、山本氏は、当事務所にご相談をされたのである。これに対し、私は裁判での解決をお勧めした。山本氏はこれを了解され、さっそく平成22年の秋に裁判が始まった。
 ところで、名古屋地裁の判決は、平成23年11月にあり、主文は3837万円であった。確かに、損害賠償金額は、損保会社の最終提示額よりも1000万円増えた。提訴した成果はあったのである。
 しかし、この名古屋地裁の判決には重大な欠陥があった。判決は、山本氏が公務員であることを主たる根拠として労働能力喪失率を25パーセントしか認定しなかったのである。
 これには、山本氏も驚かれたし、弁護士である私も「なぜ、25パーセントなのか?」と強い不満を覚えた。なぜなら、後遺障害等級が7級ということは、自賠責保険によれば労働能力の喪失率は原則的に56パーセントである。
 にもかかわらず、判決は、理由らしい理由を全く示すことなく、勝手に25パーセントに引き下げてしまったのである。
 私としては、判決を出した裁判官が超ベテランの裁判官であっただけに、このような不当な認定に対し大いに失望した。同時に、この判決は間違いであると確信を深め、山本氏の同意を得て、名古屋高裁へ控訴したのであった。
 名古屋高裁の判決は、本年3月29日にあった(判決は確定している。)。名古屋高裁民事3部は、上記名古屋地裁の判決を変更した。つまり、認定に誤りがあったことを認めたのである。名古屋高裁が認定した労働能力喪失率は40パーセントであった。私が名古屋地裁に提訴前に事前に想定した数字と全く同じであった。
 また、弁護士費用を名古屋地裁は216万円しかみてくれなかったが、名古屋高裁は440万円まで増額してくれた。
 これによって、名古屋地裁の判決は変更され、今回の障害等級7級の公務員の事案に対する裁判所の最終的判断は、労働能力喪失率40パーセントで決まった。
 なお、賠償金の額であるが、損保会社が被害者である山本氏に対して支払う金額は、事故日からの年5パーセントの遅延損害金なども含めると、総額で7098万円となった。
 結果をまとめる。山本氏が裁判を選択されたことによって、金額的には、損保会社の最終提示額に、4200万円をプラスした金額となった。また、率にすると、損保会社の最終提示額の2.4倍の金額となった。
 もし、山本氏が、平成22年の秋に提訴を選択せずに示談で済まされていたとしたら、4200万円を余分に受け取ることはなかったのである。
               

2012年03月27日

8497万円の損害賠償請求に対し8454万円の支払を命じる判決が出た

 一昨年事件の委任を受けた交通事故訴訟の判決が、本年3月上旬、名古屋地裁豊橋支部であり、このたび裁判が確定した。この訴訟とは、自転車で走行中の被害者に対し、後方から制限速度の2倍に当たる高速度で加害車が追突し、自転車に乗っていた青年をほぼ即死させたという痛ましい事故に関する訴訟であった。
 被害者の田中一郎さん(ただし、仮名)の遺族は、事故後、間もなく当事務所に事件処理の委任をされた。そこで、私は、事故現場に行って、事故発生状況を確認し、さらに交通事故の捜査に当たった警察署にも赴き、警察官に事故状況の見立てを尋ねたりした。
 その後、加害者である被告の刑事裁判が始まり、被害者である田中一郎さんの遺族も刑事裁判に参加して意見を述べたりした。しかし、被告には執行猶予判決が出た。
 民事訴訟は、昨年の7月に始まった。その後、5回の裁判を経て、本年3月上旬に判決が出たのであった。被害者の遺族は、民事裁判において、全部で8497万円余りの損害賠償を請求した。
 これに対し、判決は、全部で8454万円余りの支払を被告に命じた。判決の内容をいちいち明らかにすることはできないが、かいつまんで指摘すると、次のような内容である。
 第1に、死亡慰謝料は、死亡した青年自身の慰謝料と遺族である両親の固有の慰謝料を合計して3000万円が認められた。この点について、交通事故訴訟の実務参考書として有名ないわゆる「青い本」によれば、「一家の支柱(あるいはこれに準じる場合)」以外の場合は、2000万円から2500万円までとされている。
 今回の被害者である青年自身の慰謝料は、2400万円とされて、青い本が示す基準の範囲にとどまった。しかし、これだけで満足してしまうのは、弁護士のあるべき仕事としては、不合格である。
 というのは、被害者自身の慰謝料のほか、その遺族の固有の慰謝料を請求しておくことによって、かなりの金額の上乗せが期待できるからである。今回は、遺族の固有の慰謝料として計600万円が認められた。したがって、合計で3000万円となった。
 第2に、原告側は、弁護士費用として700万円を請求したが、判決によって700万円満額が認められた。名古屋地裁であっても名古屋市内に庁舎のある本庁の場合は、弁護士費用については独自の基準が設けられており、今回のような700万円という金額はとても認められない。より少ない金額とされてしまう。
 ただし、弁護士費用をいくら認めるかについては、事件の内容、審理に要した時間、その他の諸般の具体的事情を考慮の上で、裁判官が自由裁量で決めることになっているから、必ずこうなるという計算式は存在しない。
 いずれにせよ、損害賠償請求事件において、原告が請求した賠償額の99.5パーセントの金額を、裁判所が判決で認めることは、滅多にないことである。そのような原告完全勝訴ともいうべき判決が出た理由として、遺族が事故直後の早期の段階で弁護士に事件を依頼されたことがあげられる。早い段階で専門家に事件委任をされたことによって、周到で緻密な弁護活動が可能となり、そのことが好結果を生んだといえるからである。実に賢明な選択をされたといってよい。
 あくまで仮の話であるが、遺族において弁護士費用を少しでも節約しようと考えて、遅い段階になってから事件を弁護士に委任していたとしたら、今回のようなほぼ完全勝訴はありえなかったであろう。