2024年8月23日の岐阜新聞2面を見て驚いた。
紙面の見出しを読むと「渡辺氏に知事選出馬要請」とある。記事を読むと「県内40市町村の首長が22日、出馬の意向を示している自民党の渡辺猛之参院議員に立候補するよう要請した」とある。具体的には、8月22日に、市内のホテルで5人の首長が、渡辺氏に対し出馬要請書を渡したというのである。
これには呆れた。写真には渡辺氏本人のほか5人の首長の顔が写っている。水野瑞浪市長、石田大垣市長、冨田可児市長、宇佐美大野町長、成原白川村長の5人の面々である。一体、これらの人物は、何を真の目的としてこのような不可解な行動をとったのであろうか?
地方公共団体の首長は、地方の住民による直接選挙で選出される。その狙いは地方行政の民主的運営を確保することにある。民主的運営とは、分かりやすくいえば、地方の行政活動が一部の権力者の恣意(私利私欲)によって曲げられることを防止するということである。
ところが、昨今、岐阜県内においても、一部の首長によるパワハラ行為またはセクハラ行為が問題となって、岐南町および池田町の町長が交代する事態を迎えた。また、目下、兵庫県知事によるパワハラ行為が大きな問題となっている。
今回、5人の首長が音頭をとって、未だ正式に出馬宣言も行っていない渡辺氏に対し、あえて出馬要請を行ったことは愚行の一言に尽きる。出馬要請を行ったのが民間の団体であれば問題はない。しかし、地方自治体の現役首長がそのような要請を行うことは、大いに問題である。なぜなら、本来、首長たる者は、地方自治法上は特別職の地方公務員に該当するため、中立・公正を旨として行動することが義務付けられるからである。
これらの自治体に住む選挙権者からすれば、「令和7年2月の岐阜県知事選挙の際には、渡辺候補に投票するようお願いをする」と暗に強制されているかのごとき気持ちになるのではなかろうか。これはあってはならない事態である。
もちろん、各首長個人が、純粋に一有権者として個人的に政治活動することは問題なかろう。しかし、今回は、5人の首長が揃って出馬要請書(文書)を渡辺氏に直接交付しているのであるから、純粋の個人的政治活動と理解することは困難である。まさに、首長という地位を濫用した不適切な行動と捉えるのが正解である。
これは推測であるが、当の渡辺氏も「まったく余計なことをしてくれたものだ」と内心考えているのではなかろうか。上記40市町村の首長は、あらためて地方自治法の研修を受ける必要がある。
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