2025年に入ってから、地元の岐阜県で世間を騒がせている事件の一つが、岐阜県関市が補助金2000万円を交付した、いわゆるご当地映画をめぐる騒動である。この件の発端は、2023年の春に遡る。2025年3月19日付け岐阜新聞の記事によれば、2023年春に関市が作品を募集し、同年6月2日にプロポーザル審査があったという。応募業者からの申込みに対する審査があったということであろう。そして、同月30日には補助金の交付決定があった。
ここで、審査と交付決定の期間が短すぎるのではないかという疑問が浮かぶ。合計2000万円という大金を交付するのであるから、関市においては、申込みをしてきた業者の過去の実績、経営実態も踏まえて慎重に審査すべきであった。この段階で、関市の担当職員が普通の注意義務を果たしておれば、今回のようなトラブルに巻き込まれることはなかったのではないかと思われる。
そして、同年8月18日には、第1回目の補助金が支出された(半額に当たる1000万円。以下、事実関係については上記2025年3月19日付けの記事を根拠とする)。
2024年4月1日、2回目の補助金交付申請があり、同日、関市は交付決定をした。同年12月10日、関市は2回目の補助金1000万円を交付した。
そして、上記記事によれば、「(2025年)3月末までに複数の映画館で4週間以上公開する」という補助金交付の条件の達成が困難となったことや市職員の立ち合いによる映画の試写会が実行されていないことから返還請求の方針を決めたという。
その後、このトラブルについては、地元のテレビでも何回か報道があった。私の記憶では、今年の春頃に、問題の映画が、兵庫県内の映画館で放映されたというニュース報道を見たことがあるので、兵庫県内では映画が上映された事実があるようである。
しかし、今回の映画は、あくまで「ご当地映画」である以上、岐阜県の関市または関市が指定した近隣の市にある映画館での上映は絶対に必要である。ところが、いまだにそのような必要条件が満たされたという報道はない。
そして、本日付けの岐阜新聞を見ると、「関市、制作会社代表を告訴」とある。理由は、交付申請書に添付された書類が偽造私文書に当たるというものである。また、昨日付けで、関市長が、補助金2000万円および加算金、遅延損害金の支払いを求めて岐阜地裁に民事訴訟を起こすという方針を公表した。
これに対し、制作会社側の代理人弁護士は、記事によれば、「何もコメントできないが、非常に残念で遺憾」と発言したという。
上記の事実関係を踏まえて思ったことは、次のとおりである。
第1に、仮に近日中に関市が民事訴訟を提起した場合、制作会社が敗訴する確率は90%~100%と思われる。被告となる制作会社(代理人弁護士)は、本日付けの記事によれば、「5年かけて全額返済する」旨を、過去に関市側に申し入れていたとのことである。しかし、関市がこのような不利な条件を認容するはずはなく、仮に申入れの事実があったとしても、効果はなかったということである。
第2に、今回、被告となるのは制作会社のほかその会社の代表者も含まれる公算が高い。仮に、関市が民事訴訟で全面的に勝訴しても、債権全額を回収することは困難であろう。下手をすると、民事訴訟が岐阜地裁に係属中に、被告会社の方が自己破産を申請する事態もあり得る。そうなると、ほとんどの債権は回収不能という結果となる。
第3に、既に触れたことであるが、補助金の交付をするに当たっては、関市の方も、本当にこの会社に任せてよいのかどうかを時間をかけて検討しておくべきだった。今回、公費2000万円を無駄に使った結果を招いた関係職員には、適切な懲戒処分(または厳重注意処分)が下されるべきである(信賞必罰があって然るべきである)。
第4に、何事にも共通することであるが、他人に対して何かを有償で依頼するときは、その人物が本当に信用できるか否かを冷静に見極める必要があるということである。最近よく耳にする儲け話に乗って大金を騙し取られる事件も、「本当にその話は信用できるのか?」と相手を疑い、同時に、信頼できる身近な人物に相談するだけで、大半の場合は、未然に被害を防止できるのである。
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