お問い合わせ電話番号
受付時間:午前10時~午後5時

052-211-3639

電話でのお問い合わせ
メール相談申し込み

交通事故の法律Q&A

交通事故の法律Q&A

Q42素因減額

設問私は、昔から腰痛持ちでしたが、1年前に整形外科で診てもらったところ、椎間板ヘルニアとの診断を受けました。ところが、椎間板ヘルニア治療のための通院中に車にはねられて腰部を打ち、再び椎間板ヘルニアという診断を受け、半年後ようやく症状固定しました。ところが、相手方の保険会社の担当者は、「素因減額の必要があるから、賠償金を減額します」といってきました。私のような場合、本当に賠償金は減額されてしまうのでしょうか?

Answer

素因減額といって、事故から生じた損害の発生または拡大に、被害者の素因が寄与している場合は、賠償額が減額されることがあります。

解 説

(1) 素因減額 
 (a) 素因減額とは
素因減額とは、交通事故から発生した損害について、その発生または拡大に、被害者の素因が寄与していると認められる場合に、当事者間の公平を図るため、加害者の負担すべき損害賠償の範囲を合理的なものに限定する考え方を指します。その素因には、大きく分けると、身体的素因と精神的素因(心因的素因)があると考えられます。
(b) 基本的最高裁判例
 身体的素因について、最高裁の平成4年6月25日判決(民集46・4・400)は、「被害者に対する加害行為と被害者のり患していた疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、被害者の当該疾患をしんしゃくすることができるものと解するのが相当である」と判示しました。

(2) その他の最高裁判例 
 上記最高裁判例の立場によれば、被害者に疾患があって、その疾患が一つの原因となって損害が発生(または拡大)した場合は、その疾患を考慮することができることになります。
 ただし、別の最高裁判例は、疾患が存在する以上、加害行為前に疾患に伴う症状が発現していたか否かは問題とならない、としています(最判平8・10・29交民29・5・1272)。しかし、疾患による症状が被害者に全く出ていなかった場合にまで、素因減額の考え方を持ち込むのは疑問です。
 他方、同じ日に出された最高裁は、疾患にまで至らない単なる身体的特徴が、損害の発生・拡大に寄与していたにすぎないときは、賠償額を減額することはできないとしています(最判平8・10・29民集50・9・2474。いわゆる首長事件<くびながじけん>)。

(3) 問題点の整理
 (a) 疾患と身体的特徴の区別は必ずしも容易でないこと
 以上によれば、加害行為前から被害者に存在した身体的状態が、疾患に当たれば素因減額できますが、疾患に当たらない単なる身体的特徴にすぎないときは、素因減額ができないことになります。
 しかし、疾患と身体的特徴とは、連続した概念と考えることもでき、これらを明確に区別することは、必ずしも容易ではないと考えられます。
 (b) 疾患が損害発生(または拡大)のための必要条件となっていること
 仮に疾患が存在したとしても、素因減額が認められるためには、疾患が加害行為とともに原因となって損害が発生・拡大する必要があります。つまり、疾患がなくても、加害行為のみで損害が発生したと認められる場合は、その疾患は、加害行為と相まって損害を生じさせたものとはいえなくなりますから、疾患の存在をもって素因減額はできないと解されます。
 (c) 立証責任を負うのは加害者側であること
 疾患が損害発生(または拡大)のための必要条件であることを立証する責任を負担するのは、加害者側です。
 例えば、車が、てんかんの既往症を負っている者に衝突して同人を転倒させ、同人に頭蓋骨骨折を生じさせた結果、その者に高次脳機能障害が生じた場合、加害者側において、既往症であるてんかんが、高次脳機能障害の発生・程度に影響を与えたことを証明する証拠を提出する必要があります。仮にそれを提出することができないときは、裁判所は、てんかんの既往症があったことを理由にして素因減額をすることはできない、ということになります。
 (d) 素因減額を行うか否かは裁判官の判断に委ねられること
 仮に事故と疾患が相まって損害を生じさせたと認められる場合であっても、必ずしも素因減額を行う必要があるとは解されません。それは、素因減額の根拠規定として民法722条2項の類推適用があげられているためです。素因減額を行うか否かは、過失相殺の場合と同様、裁判官の自由裁量に委ねられていると解されます。

(4) 精神的素因
 精神的素因(心因的素因)についても、やはり最高裁判例は、損害の公平な分担という損害賠償法の理念に照らし、民法722条2項を類推適用して、損害賠償額を減額し得るとしています(最判昭63・4・21民集42・4・243)。

ページの先頭へ

Copyright (c) 宮﨑直己法律事務所.All Rights Reserved.