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交通事故の法律Q&A

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Q44損益相殺

設問私は、交通事故で負傷した者です。加害者に対し損害賠償請求を行うに当たり、損益相殺をしなければならない給付について教えてください。 

Answer

損益相殺とは、損害賠償の原因と同じ原因によって利益(給付)を受けた場合に、その利益を損害額から控除しなければならないことをいいます。控除する必要のある利益として、自賠責保険、人身傷害保険、労災保険による給付などがあります。 □

解 説

(1) 損益相殺
 (a) 損益相殺とは
 被害者が、損害賠償の原因と同一の原因によって利益(給付)を受けた場合、損害から、当該利益を控除することを損益相殺といいます。
 損益相殺の根拠として、少なくとも二つのことがあげられています。
第1に、被害者は、事故による損害の補償を受けることができますが、二重に利得することは許されません。例えば、被害者が、被害者請求によって自賠責保険から75万円の損害賠償額の支払いを受けた場合、その75万円は損益相殺の対象となります。したがって、例えば、被害者の受けた損害が全部で500万円と仮定した場合、500万円から既払金75万円を控除した425万円が、加害者に対して請求できる損害賠償金額となります。
 第2に、損益相殺の根拠として、健康保険組合のような第三者が、被害者に対し、事故を原因とする給付を行った場合、第三者は給付の限度で、被害者の有する損害賠償請求権を代位取得する旨の法律上の定めが設けられている点をあげることができます。
 (b) 損益相殺の一例
 例えば、事故によって被害者に後遺障害が残存し、加害者に対し合計で3,000万円の損害賠償請求権を有する被害者が、自賠責保険に対し被害者請求を行った結果、後遺障害等級7級が認定されて、自賠責保険から1,051万円の損害賠償額の支払いを受けた場合、被害者は、加害者に対しいくらを請求することができるでしょうか。
 この場合、全部の損害賠償金額である3,000万円から、自賠責保険から受領した1,051万円を差し引く必要があります。その結果、被害者が加害者に対して請求することができる損害賠償金額は、1,949万円となります。
(2) 損益相殺の対象となるもの
 (a) 各種社会保険
 ① 労災保険の介護補償給付・休業補償給付・障害補償給付(さいたま地判平16・1・16交民37・1・47)・療養給付(神戸地判平18・3・31交民39・2・493)・障害年金(東京地判平19・7・26交民40・4・944)
 ② 厚生年金の遺族年金(最判平16・12・20交民37・6・1489)・障害年金(神戸地判平20・8・26交民41・4・1044)
 ③ 国民年金の障害基礎年金(大阪地判平17・12・9交民38・6・1660)
 (b) 将来給付予定の社会保険
 保険給付が、将来において予定されている場合(将来給付額)、果たして損益相殺が可能か、という問題があります。この点について、最高裁の判例は、厚生年金または労災保険に基づく保険給付に関し、「政府が保険給付又は災害補償をしたことによって、受給権者の第三者に対する損害賠償請求権が国に移転し、受給権者がこれを失うのは、政府が現実に保険金を給付して損害を塡補したときに限られ、いまだ現実の給付がない以上、たとえ将来にわたり継続して給付されることが確定していても、受給権者は第三者に対し損害賠償の請求をするにあたり、このような将来の給付額を損害額から控除することを要しないと解するのが、相当である。」としています(最判昭52・5・27民集31・3・427)。
 なお、これに関連して、地方公務員の遺族年金の受給権者について、将来受給することができる遺族年金を損害額から控除することができるか、という問題について、最高裁は、「支給を受けることが確定した遺族年金の額の限度で、その者が加害者に対して賠償を求め得る損害額からこれを控除すべきものであるが、いまだ支給を受けることが確定していない遺族年金の額についてまで損害額から控除することを要しない」とする立場をとっています(最判平5・3・24民集47・4・3039)。
 (c) 社会保険以外のもの
 社会保険以外のもので、損益相殺の対象となるものとしては、次のようなものがあげられます。
 ① 自賠責保険(最判昭39・5・12民集18・4・583)(注)
 ② 政府保障事業による塡補金(金沢地判昭43・10・23交民1・4・1216)
 ③ 所得補償保険(最判平元・1・19判時1302・144)
 ④ 無保険車傷害保険(名古屋高裁金沢支部平17・5・30交民38・3・635)
 ⑤ 人身傷害補償保険(最判平20・10・7交民41・5・1104)
  (注) 自賠責保険から支払われた損害賠償額などは、損益相殺の対象となる。これに関連して確定遅延損害金というものがある。不法行為による損害賠償債務は、事故発生日から当然に遅滞に陥ると考えられる。そのため、事故発生日から損害賠償金の支払日まで、年5パーセントの遅延損害金(遅延利息)が発生する。同様に、自賠責保険金が、事故から相当期間経過した後に支払われた場合、当該期間に応じた遅延損害金が発生すると解されている(最判平11・10・26交民32・5・1331)。結果として、被害者は、当該金額を加害者に対して請求することが認められる。
(3) 損益相殺の対象とならないもの
 次に掲げるようなものは、損益相殺の対象とならないと考えられています。
 ① 加害者の支払った見舞金・香典(ただし、社会通念からみて金額が大きすぎると考えられる場合は、損害賠償金の一部前払いとみる余地があります。)
 ② 生命保険金(最判昭39・9・25民集18・7・1528)
 ③ 搭乗者傷害保険の死亡保険金(最判平7・1・30判時1524・48)
 ④ 生活保護法による給付金(最判昭46・6・29判時636・28)
 ⑤ 税金(最判昭45・7・24判時607・43)
 ⑥ 健康保険組合から支給された埋葬料(名古屋判平16・9・8交民37・5・1225)
 ⑦ 高額医療制度の利用(東京地判平17・11・28交民38・6・1575)
 ⑧ 労災保険の特別支給金(最判平8・2・23民集50・2・249)、同障害補償給付金(神戸地判平18・3・31交民39・2・493)
 ⑨ 生命保険の傷害給付金・入院給付金(最判昭55・5・1判時971・102)
(4) 過失相殺と損益相殺の先後関係
 被害者に対し社会保険給付が行われたが、事故発生について被害者にも過失がある場合、過失相殺と社会保険給付による損益相殺の順番が問題となります。
 (a) 健康保険・厚生年金の場合
 これらの場合は、損益相殺をした後に過失相殺を行うものとされています。例えば、損害額が全部で1,000万円であり、健康保険から100万円の給付があり、被害者の過失が3割であったとした場合、次のような計算となります。
 1000万円-100万円=900万円。900万円×0.7=630万円(請求可能額)
 (b) 労災保険の場合
 労災保険については、逆に、過失相殺した後に損益相殺するものとされています(最判平元・4・11判時1312・97)。上記の例にならって計算した場合、次のようになります。
 1,000万円×0.7=700万円。700万円-100万円(労災給付額)=600万円(請求可能額)

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