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交通事故の法律Q&A

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Q52人身傷害保険と損害賠償請求権の関係(その2)

設問私は、人身傷害補償保険に加入していますが、今回、事故に遭って重い後遺障害が残ってしまいました。そこで、損害の補償を受けたいと考えていますが、先に人身傷害補償保険金を受け取り、その後、加害者に対する損害賠償請求をした方がよいのか、あるいは、加害者に対する損害賠償請求をして損害賠償金を受け取り、その後で保険会社に対して人身傷害補償保険金を請求した方がよいのか、いずれがよいでしょうか?

Answer

いずれの場合であっても、受領できる損害賠償金および保険金の合計額は、原則として変わらないとする立場と、変わることがあるとする立場に分かれます。

解 説

(1) 実例その1
 (a) 問題
 まず、人身傷害補償保険金の支払が先に行われた場合を検討します。
Xが被害者、Yが加害者、Zが人身傷害補償保険会社とします。被害者には3割の過失があったとします。また、裁判所が認めた裁判基準損害額を5000万円とします。そして、人身傷害補償保険として、ZからXに対し3000万円が支払われたとします。
 この場合、人身傷害補償保険会社Zの代位取得額は、いくらでしょうか。
 また、被害者Xが、裁判において、加害者Yに裁判上請求できる損害賠償金は、いくらでしょうか。
 (b) 解答   
① 人身傷害補償保険金    3,000万円
② 過失相殺後の損害賠償額  3,500万円 
③ 合計額          6,500万円
④ Xの裁判基準損害額    5,000万円
⑤ Zの代位取得額      1,500万円(6,500万円-5,000万円=1,500万円)
⑥ XのYに対する裁判上の  2,000万円(3,500万円-1,500万円=
請求権 2,000万円)
(c) シンプルな考え方   
 裁判基準差額説とは、被害者に裁判基準損害額を確保させようとする考え方ですから、次のように簡単に理解することもできます。被害者Xは、人身傷害保険金3,000万円を先に受領していますから、Xに裁判基準損害額である5,000万円を確保させるためには、Yに対して2,000万円請求できることを認めれば足ります。
 次に、ZのYに対する代位取得額については、人身傷害保険金3,000万円から、Xの過失相殺相当額である1,500万円を差し引くことによって金額を求めることができます。本問の場合には、1,500万円となります。          
(4) 実例その2
(a) 問題
 次に、損害賠償請求訴訟の判決により、損害賠償金の支払が先に行われた場合を検討します。
Xが被害者、Yが加害者、Zが人身傷害補償保険会社とします。被害者には3割の過失があったとします。また、裁判所が認めた裁判基準損害額を5,000万円とします。
この場合、被害者Xの加害者Yに対する損害賠償請求額は、いくらでしょうか。
また、被害者Xが、人身傷害補償保険会社Zに対して請求できる人身傷害補償保険金は、いくらでしょうか。
(b) 解答
① XのYに対する過失相殺後の損害賠償請求額 3,500万円
② この場合は、人身傷害補償保険の約款の解釈が重要な問題となります。人身傷害補償保険会社の約款をそのまま適用した本来の人身傷害補償保険金は3,000万円のはずですが、そこから既払金3,500万円を控除すると、0円となります(つまり、人身傷害補償保険会社Zは、被保険者Xに対し、人身傷害補償保険金を支払わなくてもよいことになります。このような考え方を、人身傷害補償保険基準説と呼ぶことがあります。)。
 しかし、そのような解釈をとった場合、被害者Xが、先に人身傷害補償保険金を受領した場合と比較して、極めて不合理な結果となります。
 そのため、前記平成24年2月20日の最高裁判例においても、宮川光治裁判官は補足意見として、次のようにいいます。すなわち、「本件約款の人身傷害条項は、賠償義務者から既に取得した損害賠償金の額等がある場合は、保険金の額はそれらの合計額を差し引いた額とすると定めている。これを字義どおり解釈して適用すると、一般に人身傷害条項所定の基準は裁判基準を下回っているので、先に保険金を受領した場合と比較すると不利となることがある。そうした事態は明らかに不合理であるので、上記定めを限定解釈し、差し引くことができる金額は裁判基準損害額を確保するという『保険金請求権者の権利を害さない範囲』のものとすべきであると考えられる。」としています。
 要するに、請求の順番が異なるというだけのことで、被害者が受け取ることができる金額が異なるという結論は不合理である、ということです。
 以上の理由から、本問の場合、被害者Xは、人身傷害補償保険会社Zに対し1,500万円を請求することができると解されます。
③ この点に関する最近の参考判例として、京都地裁平成23年6月3日判決があります(交民44・3・751)。および大阪高裁平成24年6月7日判決(判時2156・126)があります。
前者の判決は、前期宮川光治裁判官の補足意見に近い考え方をとっています。これに対し、後者の判決は、人身傷害補償保険の約款をそのまま適用する立場をとっています。このように、裁判所によって考え方が分かれています。

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