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交通事故の法律Q&A

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Q7使用者責任

設問甲社に勤務する従業員乙が、自分の車(自家用車)に乗って会社の営業活動に出かけましたが、前方をよくみていなかったため、途中で丙の運転する車と衝突事故を起こし、丙に対し傷害を負わせました。その場合、甲社は、丙の受けた損害を賠償する責任はありますか?

Answer

この場合、甲社において、従業員である乙がその所有車を使って営業活動を行うことを承認(黙認の場合を含みます。)していたかどうか、という点が問題となります。仮に、承認していた場合は、甲社はその責任を免れることはできないと考えられます。他方、承認していなかった場合は、その責任を問われない可能性が高いと解されます。

解 説

(1) 法的責任の根拠
 本問の場合、甲社に責任を認める根拠は二つあります。
 第1は、これから述べる民法715条の使用者責任であり、第2は、自賠法3条の運行供用者責任です。
(2) 使用者責任
 (a) 使用者責任とは
 使用者責任とは、他人に使用されている者(被用者)が、事業の執行について第三者に違法に損害を与えた場合に、その者を使用する者(使用者)に発生する責任をいいます。
  民法715条第1項 「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督に  ついて相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」  
  第2項 「使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。」
  第3項 「前2項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。」

 (b) 使用者責任の成立要件
 甲社に使用者責任が発生するためには、以下に述べる4つの要件を満たす必要があります。
① 甲社と従業員乙との間に、事業のための使用関係が存在すること。 ここでいう事業とは、営利を目的としたものである必要はありません(単なる仕事という程度の意味です。)。また、必ずしも継続的なものである必要はなく、一回限りのものでも構いません。
 次に、使用関係は、一方が他方に命令して仕事をさせるという関係があれば足ります。
② 被用者である乙が第三者(丙)に対し違法に損害を与えたこと。乙の行為が民法709条の不法行為責任発生の要件をすべて満たしていることを要します。本問では、この点も肯定できます。
③ 乙が、甲社の事業の執行について、第三者(丙)に対し損害を与えたこと。実務上、最も問題となる点がこれです。
 ここでいう「事業の執行につき」という要件の有無は、外形的に判断すれば足りるとされています。外部からはうかがい知ることができない内部的な事実関係まで考慮する必要はないという意味です。このような立場を外形標準説といいます。最高裁の判例は、この考え方を採用しています(最判昭40・11・30民集19・8・2049)。
 そして、乙が営業活動をするために車に乗って移動するということは、第三者からみた場合、甲社の事業のために行っていると通常は理解されます(乙が、甲社とは無関係に、プライベートな時間を自由に過ごしていたなどと理解することは困難です。)。
 ただし、本問の場合、甲社が乙の自家用車を使用した営業活動を承認していたか否かが問題となります。仮に承認(又は黙認)していた場合は、事業の執行性を肯定することができます。一方、承認していなかった場合は、これを肯定することは、原則として困難となります。
④ 使用者である甲に免責事由が存在しないこと。確かに、条文上は免責事由が定められていますが、しかし、実務上はそのような免責が認められることはほとんどありません。したがって、使用者責任の規定は無過失責任に近い性格を帯びているということができます。
 (c) 代理監督者の責任
 甲社において、甲社(使用者)に代わって被用者の選任・監督の一方または双方を行う者を代理監督者といいます(民715条2項)。ここでいう代理監督者とは、客観的にみて使用者に代わって現実に事業を監督する立場にある者を指します(最判昭42・5・30民集21・4・961)。そのような者が甲社に存在した場合、同人は甲社とともに代理監督者責任を負います。
(3) 運行供用者責任
 仮に甲社において、乙の自家用車を使った営業活動を認めている場合は、甲社は、自賠法3条の運行供用者に該当すると解釈することも可能です(最判昭52・12・22判時878・60、最判平元・6・6交民22・3・551)。
 その場合、乙もまた保有者として甲社と並んで運行供用者責任を負うと解するか、あるいは単なる運転者として民法709条の不法行為責任を負うと解するかという点については、考え方が分かれると思われます。
(4) 不真正連帯債務の関係
 以上、甲社が乙の自家用車を使った営業を認めていた場合には、原則的に甲社は民法715条の使用者責任を負い、他方、乙は民法709条の不法行為責任を負うと解されます。その場合、双方の債務は、不真正連帯債務の関係に立つと解されます(最判昭45・4・21判時595・54)。
(5) 甲社から乙に対する求償権行使
 民法715条3項によれば、損害賠償義務を果たした甲社は、被用者(従業員)である乙に対し、求償権を行使することができるとされています。ここで、甲社は乙に対し、賠償額の全額を求償することができるか、という点が問題となります。
 この点について最高裁の判例は、損害の公平な分担という見地から、必ずしも全額を求償することまでは認めておらず、信義則上、相当と認められる限度においてのみ求償を認めるとする立場をとっています(求償権の制限。最判昭51・7・8民集30・7・689)。
 したがって、仮に甲社が、例えば100万円を丙に対して損害賠償金として支払ったとしても、具体的事情によっては、そのうちの20万円から30万円程度しか、乙に対する求償が認められない可能性があります。
 最近の下級審判決の中には、工場内でフォークリフトを運転中に死亡事故を起こした従業員に対し、会社が求償権を行使したところ、会社支払額の25パーセントの限度でこれを認めたものがあります(大阪地判平23・12・1交民44・6・1509)。

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