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交通事故の法律Q&A

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Q16公務中に発生した交通事故の損害賠償責任

設問 甲県警の警察官(巡査部長)である乙がパトロールカーを運転して、逃走中の犯人丁を追跡中、信号機のない交差点で第三者丙の運転する車と衝突し、丙は怪我を負いました。丙は、誰に対し損害賠償責任を追及することができるでしょうか?  次に、甲県の職員である乙が、県主催の会議に出席するため公用車に乗って県の出先機関の庁舎に向かっている際に、同じく丙の運転する車と衝突して丙に怪我を負わせた場合には、どう考えるべきでしょうか?

Answer

 警察官乙がパトロールカーを運転して、逃走中の犯人丁を追跡する行為は、公権力の行使に該当すると考えられますので、丙は、国家賠償法1条に基づいて、甲県に対し損害賠償責任を追及することができると解されます。  次に、甲県の職員である乙が、県の出先機関の庁舎に向かって車を運転して赴く行為は、公権力の行使には当たらないと考えられます。したがって、丙は、甲県には民法715条に基づく使用者責任を、また、乙には民法709条に基づく不法行為責任を追及することができると解されます。なお、甲県および乙に対し自賠法3条に基づく運行供用者責任を追及するという方法も可能と考えられます。

解 説

(1) 乙が県警の警察官である場合
 (a) 国家賠償法1条の適用
 乙は、甲県警の警察官(巡査部長)ですから、乙は一般職の地方公務員となります(地公3条2項)。
 ところで、国家賠償法1条は、公務員が公権力を行使した際に、他人に対し違法に損害を与えた場合の賠償責任について定めています。

  国家賠償法1条第1項 「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」
  第2項 「前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があったときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。」

 (b) 公権力の行使
 国家賠償法1条が定める要件のうち、同条1項の「公権力の行使」に当たるかどうかという点がしばしば問題となります。これについては諸説あります。
 (ⅰ) 狭義説
 公権力の行使を狭く解釈して、権力的行政活動に当たるものに限定しようとする立場があります(狭義説)。この考え方によれば、例えば、課税処分、営業停止命令、道路の通行禁止命令などがこれに当たることになります。
 (ⅱ) 広義説
 しかし、狭義説では公権力の行使に当たるとされる行為が狭くなりすぎて、被害者の権利救済には十分とはいえないとして、より広く解釈する立場があります(広義説)。この考え方によりますと、非権力的行政活動もこれに含まれます。例えば、行政指導、国公立学校における教育活動、行政による情報提供行為なども、これに含まれることになります。
行政実務および最高裁の判例は、この見解をとっていると考えられます(最判昭54・7・10民集33・5・481、最判昭62・2・6判時1232・100)。
 (ⅲ) 最広義説
 そのほかに、上記のものに加え私経済活動も、公権力の行使に当たるとする立場もあります(最広義説)。しかし、契約締結行為のように本来平等な立場にある者の間で発生した損害については、公権力行使の結果として生じたものとは考え難く、妥当な考え方とはいえません。したがって、例えば、国公立病院における医療過誤行為は、民法709条(医師個人の責任)・715条(病院の責任)で処理することになります。(注)
  (注) ただし、地方自治体が主体となって行われる予防接種によって被接種者に後遺障害が生じたような場合は、民間病院で予防接種を受ける場合とは異なって強制的な色彩を帯びることから、公権力の行使に当たるとみるのが最高裁判例の立場である(最判平3・4・19民集45・4・367)。
 (c) 本問の場合
 本問では、甲県警の警察官乙がパトロールカーを運転し、逃走中の犯人を追跡しています。これは犯罪捜査を目的とする権力的行為であることが明らかです(警察官以外の民間人がこのような活動をすることは法律上認められません。)。したがって、パトロールカーと衝突して負傷した丙は、国家賠償法1条に従って、甲県に対し損害賠償を請求することができると解されます(なお、警ら中の警察官が運転するオートバイが人身事故を起こした事案について、大阪地裁平成22・11・17判決<交民43・6・1455>国家賠償法1条の適用を肯定しています。)。
 (d) 加害公務員個人に対する責任追及の可否
 ここで、丙は、交通事故を起こした警察官乙個人に対しても損害賠償請求をすることができるか、という問題があります。この点について、最高裁判例はこれを否定する立場をとっています(最判昭30・4・19民集9・5・534)。公務員の個人的責任を否定する根拠として、次のような点があげられます。
 ① 被害者は、国または地方公共団体から損害賠償金を得ることができれば、それで経済的な補償は受けられることになるのであるから、加害公務員に対する損害賠償請求権の行使を認める必要性はない。
 ② 仮に、加害公務員個人に対する損害賠償請求を認めることになると、公務員個人に対する訴訟が濫発されるおそれがあり、公務員の職務遂行意欲を萎縮させる危険がある。
 (e) 地方公共団体から加害公務員に対する求償
 甲県が被害者丙に対して損害賠償金を支払った場合、甲県は加害公務員乙に対し、同人に故意または重過失がある場合に限って、求償することが認められています(国賠1条2項)。
(2) 乙が県職員である場合
 (a) 国家賠償法1条の不適用
 乙が甲県の職員である場合も、やはり、乙は地方公務員に該当します。
そこで、乙が公用車を運転して県の出先庁舎で開催される会議に出席するため車を運転する行為が、果たして公権力の行使に該当するか、という点が問題となります。
確かに、広義説は、非権力的な行政活動も公権力の行使に含まれるとします。しかし、乙は、単に公用車を運転していたにすぎず、行政活動遂行の性格は希薄といえます。したがって、この場合は、私人が、例えば、会社の営業活動に出かけるため、会社の車を運転中に事故を起こした場合と同様に考えることができます。
以上のことから、乙が県職員である場合には、国家賠償法1条の適用はないと解されます。
 (b) 民法715条の適用
 本問の場合は、交通事故を起こした県職員乙には民法709条の不法行為責任が発生します。また、甲県は、同人の使用者たる地位を有すると考えることができますから、民法715条の使用者責任が発生すると解されます。あるいは、県職員乙および甲県の双方について、運行供用者責任を認めることも可能であると解されます。
以上の場合、双方の損害賠償責任は、不真正連帯債務関係に立つと解されます。

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