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交通事故の法律Q&A

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Q18公務員の懲戒処分

設問酒運転による人身事故を起こした職員乙は、地方公務員法上どのような不利益処分を受けることになりますか? 仮に、職員乙に飲酒の事実が一切なく、単にハンドル操作を誤って歩行者丙に全治1か月の怪我を負わせた場合はどうなりますか?

Answer

乙には、地方公務員法上の懲戒処分が下される可能性が極めて高いと考えられます。また、刑事裁判の結果、禁固以上の刑が確定した場合は当然に失職することになります。

解 説

(1) 懲戒処分
 (a) 信用失墜行為の禁止
 職員乙は地方公務員ですから、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、かつ、職務の遂行に当たっては全力をあげてこれに専念する義務を負います(地公30条)。
 そのため、地方公務員法は、法令順守および上司の命令に従う義務(同32条)、信用失墜行為の禁止(同33条)、守秘義務(同34条)、職務専念義務(同35条)、政治的行為の制限(同36条)、争議行為等の禁止(同37条)、営利企業等の従事制限(同38条)などの身分上の義務を課しています。
 これらの義務のうち、本問に直接関係すると考えられる義務は、信用失墜行為の禁止です(地公33条)。この義務は、職務の内外を問わず課せられている義務と考える立場が一般です。したがって、職務上の義務違反(例えば、収賄行為、職権濫用行為など)はもちろんこれに該当しますが、職務外の私人としての非行(例えば、悪質な交通事故、万引き、喧嘩など)もこれに当たると解されます。
 (b) 懲戒事由
 地方公務員法は、公務員としての義務違反行為があった場合、これに対する制裁としての性格を有する懲戒処分の制度を定めています(地公29条1項)。一般的に、懲戒事由は三つあります。地方公務員に関連する法令違反があった場合(1号)、職務上の義務違反・職務懈怠(2号)および全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合(3号)の三つです。
 ところで、本問の職員乙は、飲酒の上で車を運転し、その結果、歩行者丙をはね、同人に全治1か月の重傷を負わせています。これは、3号の「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」に該当すると考えられます。
 (c) 懲戒処分の決定
 懲戒処分の種類としては、四つのものが定められています(地公29条1項)。戒告、減給、停職および免職の四つの種類です。
 本問の職員乙に対し、どのような懲戒処分を行うかについては、原則的に任命権者(甲県知事)の合理的な裁量判断に委ねられるといえます。
 (d) 「懲戒処分の指針について」
 この点に関し、人事院は、「懲戒処分の指針について」という通知を公表しています(平成12年3月31日職職-68。最終改正平成20年4月1日職審-127)。これをみると、具体的な処分を量定するに当たり、どのような要素について考慮する必要があるかという点が示されています。そして、飲酒運転による人身事故を起こした場合は、酒酔い運転による場合が免職、酒気帯び運転による場合が免職または停職とされています。
 (e) 職員乙に対する懲戒処分
 甲県においても、おそらく上記人事院の指針を参考に独自の指針を定めているものと思われます。そうしますと、職員乙については、酒酔い運転による場合は免職処分、酒気帯び運転の場合は免職または停職処分とされる公算が大きいと判断されます。
 なお、乙が酒酔い運転をしておらず、ハンドル操作を誤って歩行者丙に全治1か月の傷害を負わせたにすぎない場合には、上記指針を参考に考えると、減給または戒告処分が行われる可能性が高いといえます。
(2) 失職
 (a) 欠格条項
 地方公務員法16条は、公務員に対する信用・信頼を維持するために、欠格条項を定めています。ある者が欠格条項に該当すれば、職員となることは認められませんし、競争試験を受けることもできなくなります。
 そして、同条2号は、「禁固以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者」と定めます。
(b) 失職
 このように、現に職員の身分を有する者が欠格事由に該当した場合は、当然にその職を失うことになります(地公28条4項)。これを失職といいます。失職の場合は、当該職員は、何らの行政処分を経ることなく職員の身分を喪失することになります。失職の通知には処分性はありませんから、失職の有効性を争う場合は、通知の取消訴訟ではなく、職員たる地位の確認訴訟(当事者訴訟。行訴4条)を提起することになると解されます。
(c) 最高裁判例
 地方公務員法28条4項および16条2号の合憲性について、最高裁の判例は次のように述べています(最判平12・12・19判時1737・141)。
すなわち、「禁固以上の刑に処せられた者が地方公務員として公務に従事する場合には、その者の公務に対する住民の信頼が損なわれるのみならず、当該地方公共団体の公務一般に対する住民の信頼も損なわれるおそれがあるため、このような者を公務の執行から排除することにより公務に対する住民の信頼を確保することを目的としているものである。[中略]地方公務員法28条4項、16条2号の前記目的には合理性があり、地方公務員を法律上右のような制度が設けられていない私企業労働者に比べて不当に差別したものとはいえず、右各規定は憲法13条、14条1項に違反するものではない。」としています。
 (d) 職員乙の刑事処分
 (ⅰ) 飲酒運転をして人身事故を起こした場合
 この場合、乙には、自動車運転過失致傷罪(刑211条第2項)と酒酔い運転の罪(道交117条の2第1号)または酒気帯び運転の罪(同117条の2の2第1号)が成立することになりますから、法定刑は、懲役、禁固または罰金刑ということになります。
 しかし、刑事裁判について公訴提起の権限を持つ検察官が(刑訴247条)、このような悪質な人身事故事案について罰金刑による求刑を選択すると考えることは困難です。したがって、ほぼ間違いなく懲役刑が求刑される、と考えられます。
 すると、刑事裁判の結果、職員乙が無罪とされた場合を除き、懲役刑の言渡しが行われる可能性が高いといえます。その場合、仮に執行猶予付きの判決が出たとしても、前記欠格事由に該当することになり、職員乙は失職することになります。(注)
 (ⅱ) 飲酒運転はなく歩行者丙に対し全治1か月の傷害を与えた場合
 この場合、職員乙は、自動車運転過失致傷罪(刑211条第2項)に問われることになりますから、法定刑は7年以下の懲役・禁固または100万円以下の罰金刑となります。
 この場合、検察官としては、被害者との間で示談が成立し、また、被害者から嘆願書が出ているような場合には、刑事裁判においては罰金刑を選択する可能性が極めて高いと考えられます。その場合、仮に、判決で罰金刑の言渡しがあり、それが確定したときは、禁固以上の刑に処せられたことにはならないため、欠格事由には該当しなくなります。
  (注) 執行猶予を付することができるのは、3年以下の懲役・禁固または50万円以下の罰金の言渡しを受けた場合に限られる。その場合、裁判が確定した日から、1年以上5年以下の期間、刑の執行が猶予される(刑25条)。
 (e) 退職金の不支給
 甲県の条例で、職員が失職したときは退職金を支給しないと定めていたような場合、乙は退職金を受け取ることはできなくなります(最判平12・12・19判時1737・141)。

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