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弁護士日記

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伊東市の田久保市長は即時辞職すべきだ

2025年08月02日

 本日(2025年8月2日)の産経新聞の「産経抄」を読んだところ、2人の政治家の居座りについて取り上げていた。一人は、言うまでもなく石破茂総理大臣である。もう一人は、伊東市の田久保市長である。産経抄の趣旨は、2人とも辞職すべきであるという見解と読んだ。至極当然のことである。
 さて、今回私が取り上げるのは、後者の伊東市の田久保市長についてである。
報道で明らかとなっているとおり、問題の発端は、田久保市長が、東洋大学法学部を卒業していないにもかかわらず、大学を卒業していると市の公的文書に記載したことである。
 一般論として考えれば、自分自身が大学を卒業しているのか、あるいは除籍処分を受けているのかは、普通の健康な大人の記憶力を前提に考えれば、間違えるあるいは誤解するという事態は起こり得ない。卒業するには、筆記試験を受け、あるいはレポートを書いて卒業に必要とされる最低数の単位をとる必要があるからである。最近ではどうなっているかはよく知らないが、昔は、普通の企業(または官公庁)に正式に就職しようとした場合、入社前に、採用企業の人事担当者に対し卒業証明書を提出する必要があった。
ところが、除籍になっているということは、必要な単位が不足していたということである。当然、学部長および学長の公印が押してある卒業証書ももらえないのである。そもそも手元にないのである。
 以上のことから、通常、大学卒業したはずの20歳代前半の当時から、卒業証書が手元にない場合は、自分で「卒業していたものと信じていた」という認識ないし記憶は本人の頭の中に残ることはあり得ない。
 ところが、報道によれば、田久保市長は、「自分では卒業したものと思い込んでいたが、大学の事務局に確認したところ、除籍処分を受けていたと聞き、自分が大学を卒業していないことが分かった」と述べているが、上記の根拠から判断する限り、これは到底信じ難い。
 もちろん、田久保市長の内心の意識は、上記発言のとおりだった可能性は残るが、しかし、裁判所を含めた広い世間の認識は別物と心得るべきである。 
 次に、田久保市長は、伊東市議会から自治法100条に基づく調査権の対象となっている(100条調査権)。ところが、田久保市長は、いわゆる100条委員会からの正式な要請があったにもかかわらず、出頭、証言、記録の提出を拒んでいる。それどころか、「何についての証言を求めているのか不明であるから、要請には応じられない」、「今回の不出頭は、正当な理由にもとづくものである」という奇妙な屁理屈を述べている。
 しかし、このような詭弁が通る余地はない。なぜなら、市長の学歴疑惑をめぐって市政が混乱・停滞しているのであるから、100条委員会は、その点について聴くために出頭、証言、記録の提出を求めていることが明らかだからである。
 そもそも100条委員会で、詳細な質問(尋問)事項書面を事前に作成し、それを相手方に送付する必要があるという法律の明文はない。不出頭に正当な理由は見当たらないのである。
 よって、田久保市長の不出頭、証言拒否、記録提出の拒否の各行為には、違法なものであるとの評価を受け、結果、6か月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金刑が科されることになる(自治100条3項)。これらの余計な行為をしたことによって、新たな犯罪を犯したことになる。事態は悪化の一途を辿っているということである。
 より問題な点は、しばらく前に、卒業証書らしきものを、市庁舎の中で市議会の議長などに一瞬見せたという件である。私は、テレビニュースでその光景を見たが、田久保市長の、大人とは思えない振舞いには呆れた。これが自治体の首長のすることか?
 その際、卒業証書らしき書面は、田久保市長個人の代理人弁護士の事務所の金庫に保管されているという報道が続いた。
 私は、これには驚いた。報道の真偽はともかく、仮に代理人弁護士の事務所の金庫に保管されているという報道が正確なものと想定した場合、次のような問題が生じ得る。
 田久保市長が市議会関係者に対し、一瞬見せたという文書は、当時の田久保市長の思惑によれば、大学が作成した「本物の卒業証書」であるという前提であったと解される。しかし、現時点では、大学を除籍されているという客観的状況を踏まえると、当該文書は、文書を作成する正当な権限を持たない者が、恣意的に作成した怪文書ということになる。卒業証書まがいの怪文書ということである。
 この場合、仮に田久保市長自身または同人から具体的指示を受けた者が自ら偽造した場合は、偽造した者に刑法159条の私文書偽造罪が成立する(3月以上5年以下の拘禁刑)。田久保市長が全く関与しないまま、それ以外の第三者が勝手に偽造し、それを受け取った田久保市長が、あたかも卒業証書に見せかけるために議会関係者に見せた場合は、刑法161条の偽造私文書行使罪が成立する(3月以上5年以下の拘禁刑)。
 いずれにしても、田久保市長には上記の罪が成立する可能性がある。そのような状況下において、問題となるのは、当の怪文書の所在である。
 以下の記述は、あくまで代理人弁護士が、上記怪文書を事務所の金庫に保管するという事実があったことを大前提とする。その場合、その当否が問題となる余地がある。
 日本弁護士連合会が定めた「弁護士職務基本規程」は、第5条で、「弁護士は、真実を尊重し、信義に従い、誠実かつ公正に職務を行うものとする」と定める(信義誠実義務)。また、その第14条では、「弁護士は、詐欺的取引、暴力その他違法若しくは不正な行為を助長し、又はこれらの行為を利用してはならない」(違法行為助長禁止義務)と定めている。
 怪文書を弁護士事務所の金庫に保管するという行為は、果たして依頼者の正当な利益を実現するものと断言できるであろうか。また、法解釈次第では、保管者自身について刑法104条の証拠隠滅罪(なお、ここでいう「隠滅」には、隠匿も含まれると解されている。)が適用される可能性も捨てきれない。今後起こりうるあらゆる事態の予測を踏まえ、ここでは慎重にも慎重な対応が求められよう。
 では、田久保市長はどのように対応すればよかったのか。私見によれば、最初から大学を卒業していなかったと認めておけばよかったのである。「記憶違いだった。申し訳ございませんでした」と素直に訂正しておけば、結果的に、大事に至らずに、事態が収束した可能性がある。
 さらに言えば、100条委員会が開催された場合には、これに出頭し、かつ、誠実に証言を行い、また、怪文書も100条委員会に提出し、その上で、真摯な反省・謝罪の記者会見を行うという方法があり得た。
 ところが、現実には、田久保市長のこれまでの行動は稚拙なものであり、自治体のトップに座る資格はないことが明るみになった。なぜ、このような「子供じみた対応」しかできなかったのか?不思議というほかない。
 刑事事件に例えれば、犯人であることを示す明白な客観的証拠が十分すぎるほどある事件において、被告人が「私は無実である。むしろ被害者が嘘をついているのである」と主張し、結果、裁判官の心証を著しく害し、本来であれば執行猶予付きの軽い判決で済んだところ、重い実刑判決を受けることになったようなものである。
 公人(特別職の公務員)たる市長が、自ら地方自治法を無視し、犯罪行為を実行し、かつ、反省もなく開き直るという態度は、言い方は悪いが「レベルが低すぎる」という以外にない。仮に同じようなことが各地で頻発するような事態が生ずれば、日本は法治国家ではなくなるであろう。ここは是非とも白黒のケジメを付けておく必要がある。
 また、8月2日付けの岐阜新聞24面によれば、「伊東市全部長が市長に辞職要求」とある。市職員の幹部級の全員から「辞めろ」という声が出ているのであり、まさに前代未聞の不祥事という以外にない。市の職員も田久保市長を全く信頼していないということである。よって、自治体のトップを務める資質を欠いた田久保市長は、即時辞職する以外にない。また、さらにいえば、今後、伊東市民の民度が問われることになるということである。
(追記)
 現時点(2025年8月4日午前)で田久保市長は、市長の続投を明言しているが、今後、伊東市議会は市長の不信任決議案を可決し、その後、市長による市議会解散、市議会議員選挙という方向に進む可能性が高いと予想する。一国の総理大臣である石破茂による無責任極まる居座り現象が、今回の田久保市長の行動に対し、悪い影響力を及ぼしたということである。

 
 

日時:14:32|この記事のページ

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