058-338-3474

お問い合わせ電話番号
受付時間:午前10時~午後5時

電話でのお問い合わせ

弁護士日記

弁護士日記

損保と闘う(4)(自賠法3条について)

2009年04月27日

 最近私が扱った交通事故裁判で、損保側弁護士の余りにも無責任な言動に驚いた事件があったので、参考までに紹介したい(プライバシー保護の見地から、地名、人名、年齢などはもちろん全部変えてある。)。
 その交通事故は、数年前に東北地方のある小都市で発生した。被害者である女性は、所用があってその街の商店街の狭い車道を歩いて渡ろうとしていた。その際、女性は、右前方方向から突然右折してきた軽自動車にはねられ、路上に転倒し、間もなく入院先の病院で死亡するに至った。軽自動車にはねられた際に、道路に転倒して頭部を打ち、クモ膜下出血を起こしたのが致命傷となった。
 この裁判において、加害者が依頼した弁護士(加害者は自動車保険つまり任意保険に加入していたから、賠償金は全部保険で賄われる。弁護士費用も同様である。よって、加害者に弁護士を選択する余地は事実上ない。いわば、損保会社が指定した弁護士が当該加害者の代理人として訴訟活動などを行う。)は、今回の事故と被害者の死亡との間の因果関係について、「判然としない」という奇妙な答弁を行った。
 しかし、死亡診断書などを客観的に見る限り、事故と死亡結果との間の因果関係は明らかであった(なお、裁判の途中からその弁護士は因果関係を認めるに至った。)。私は、一体この弁護士は何を考えているのか、非常に不信感を持った。なぜなら、死亡診断書から死因は明らかであったし、民事裁判の前に行われた刑事裁判においても被告人である加害者は何ら争うことなく自動車運転過失致死罪を認めていたからである(訴追された罪名は「致死罪」であるから、自分が死なせたことを認めたことは明白であった。)。
 さらに私を驚かせることがあった。それは、被告には「法的責任がない」とする答弁である。法的責任がないという答弁は、客観的に考える限り法律上成り立つ余地がほとんどないのである。なぜなら、まず、刑事上の責任は、罰金刑が確定しているから、もはやこれを否定することは不可能である。
 次に、民事上の責任については、自賠法という特別法が制定されており、人身事故を起こした加害者が、その責任を免除してもらおうとする場合、きわめて高いハードルが設定されている。免責されるためには、次の3つの要件を満たす必要がある(しかも、加害者の方で立証する必要がある。)。
 第1に、加害者自身に過失がなかったこと、第2に、被害者に過失があったこと、第3に、自動車の構造上の欠陥または機能の障害がなかったこと、の計3点である。このうち、第1の要件を証明することは、不可能である(ということは免責されることはあり得ないということを意味する。)。今回の事故は、軽自動車で右折しようとした加害車が右折時に前を全然見ていなかったという事実が刑事記録に書かれており、そのことを加害者自身が警察や検察庁で述べているのであるから、前方不注意の事実は確実にあったのである(したがって、加害者は無過失だったとは絶対に言えない。)。
 にもかかわらず、加害者側の弁護士は、「加害者には責任はない。」と述べたのであった。しかも、ただ単に「責任はない」と言うだけで、現在までのところ、積極的に免責要件が具備されていることを主張するわけでもなく、まして立証活動をするわけでもない状態である。
 我々弁護士は、依頼者の正当な利益を図って行動する義務がある。大半の弁護士はそのように心がけていると思う。しかし、残念なことに、ごく一部には心得違いを犯しているのではないかと疑われる不適格弁護士が存在するのも事実である。このようなことは好ましいことではない。その抑制策として有効なのは、このような場合に、裁判所が慰謝料を通常の場合よりも相当増額することである。慰謝料が増額されれば、賠償額も増額することになる。そうすると、弁護士を使う側の損保としても、通常の裁判の場合よりも経済的に多く損失を受けることになり、将来的に、不適格弁護士に仕事を依頼することを差し控えることになるのではないか。そういうことによって、不適格弁護士が淘汰されることは大いにあってもよいと考える。

日時:17:00|この記事のページ

カテゴリー

月別バックナンバー

最近のエントリー


ページの先頭へ

Copyright (c) 宮﨑直己法律事務所.All Rights Reserved.