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弁護士日記

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山田吉彦著「日本国境戦争」を読んで

2011年09月15日

 山田吉彦著「日本国境戦争」(ソフトバンク新書)を読んでみた。この本の著者である山田吉彦氏は、現在、東海大学海洋学部教授である。氏は、海洋政策、海洋安全保障、国境問題の専門家である。
 ちょうど1年前の9月に、日本固有の領土である尖閣諸島で、中国の漁船が領海侵犯を犯し、その取締に当たった海上保安庁の巡視船に故意に衝突してきたという事件が起こった。その後の経緯は、いまだ多くの国民の記憶に新しい。
 山田氏によれば、この事件の以前からも、中国は、大量の漁船団を組んで、尖閣諸島の海域に送り込んでいたという。8月には1日で270隻、事件が起こった日には、1日で160隻もの漁船団を尖閣諸島に送り込んでいた。そのうち、30隻が領海侵犯を行ったのであるが、その30隻のうちの1隻が、海上保安庁の巡視船に故意に衝突してきたのである。
 私は、この本を読んで驚いた。1隻の漁船がたまたま衝突してきたのではなく、中国政府が仕掛けた大漁船団が徒党を組んで、尖閣諸島に押し寄せ、30隻が我が国の領海を侵犯し、そのうちの1隻が衝突してきたということを初めて知ったからである。偶然に1隻の漁船が衝突してきたという事件ではなかったのである。
 ここで、なぜ中国は、漁船団を組んで他国の領海を侵犯するのかという疑問が湧く。山田氏は、その理由について、日本が主張している尖閣諸島の我が国の領海内で騒ぎを故意に起こすことによって、領土問題が存在することを国際社会に認識させるという点があげられている。
 そして、山田氏は、中国政府は、漁船の船長が逮捕されることをむしろ望んでいたと分析する。なぜなら、中国人船長が逮捕され身柄を拘束されたことで、日本に対し、言いがかりを付ける大義名分が出来るためである(ちょうど、悪知恵にたけた暴力団が、善良な市民に対し、ささいなことをネタに因縁をつける構図と全く同様である。)。
 ところが、日本政府は、違法行為を犯した船長を、なんと釈放してしまった。法治国家としては考えられない大失態を犯した。なぜそのようなおかしな対応を取ったのかは不明であるが、ちょうどその頃、横浜で開催がされることが決まっていたAPEC首脳会議を成功させるという目的が、釈放の大きな要因をなしていたことはほぼ間違いない。
 そして、菅総理は、APEC首脳会議において、中国の胡錦濤国家主席と会談した際に、顔を上げることなく下を向いたまま原稿を棒読みし、かたや胡錦濤は菅首相の顔を凝視するという、おかしな光景が生じたのである。しかし、このような菅政権の延命という小さな目的のために、我が国の国家主権を放棄するかのごとき愚行を犯した罪は重い。当時の民主党の政権幹部の認識が、いかに間違ったものであったかを露呈したといえよう。
 また、民主党政府が、衝突ビデオを国民の目に触れないようにしようと試みたことは大きな間違いであって、これには弁解の余地はない。しかし、幸いにも、勇気ある一海上保安官がビデオを国民に見せてくれたことで、日本国民は、中国人船長のやりたい放題の無法行為をこの目で確認することができた。
 そのほかに山田氏は、東シナ海のガス田の協議の問題や、2004年に発生した中国の原子力潜水艦の我が国領海侵犯をも取り上げる。
 前者については、東シナ海のガス田開発については、最初から余り採算がとれないということが分かっていたのであるから、日中中間線の西側(中国側)で、中国が開発をしたいというのであれば、勝手にさせておけば済む問題だったとする。仮に、採算ベースに乗るのであれば、中間線の東側(日本側)において、日本独自で開発を進めればよいだけの話であるとする。私もこれに賛成する。
 日中共同開発というような試みは、うまくいくはずがない。相手は、嘘、ゴマカシ、裏切り、強迫、謀略など何でもありの一党独裁の国家なのであるから、仮に日本が武士道精神にのっとり、紳士的な態度をとっても、中国を利するだけの結果で終わる可能性が高いからである。
 後者については、国際法上、他国の潜水艦が他国の領海を通過する場合には、必ず海上に姿を現した状態で航行する必要がある(これを無害通航権という)。
 ところが、2004年、中国は、原子力潜水艦を、石垣島と多良間島の間を、水面下100メートルを保ったまま(要するに潜航したまま)、我が国の領海を通過させたのである。このような行為は、国際法に反する違法行為であって、普通であれば撃沈されても文句はいえないのである。このときも、日本は、何もしなかった。このような行為を、仮にアメリカやロシアの領海で行っていたら、宣戦布告に近い行為がされたものと判断されて、撃沈されていた可能性が高いとする。私も同様の考え方である。
 山田氏の本には、そのほかにもいろいろと有益な情報が記載されている。私としては、国民の皆さんに対し、本書を広くお勧めしたいと考える。
 我が国は、海で囲まれているため、国民は、国境線の存在を明確に意識することが少ない。それだけに、中国のような国家の権益を海洋に拡大しようとしている意図が明白な国家が隣接している以上、日本としても、これに対する警戒感をより高めておく必要が是非ともあると考える。
 具体論については、次回に譲る。
    

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