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弁護士日記

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最新交通事故判例紹介(その1) 労働能力喪失期間について

2016年02月24日

 本日から、しばらくの間、最近出された交通事故関係の判例の中で、私が気になったものを取り上げて紹介したいと思う。今回、紹介するのは、東京地判平成25年1月16日判決である(交民46巻1号49頁参照)。
 この判決は、被害者の後遺障害等級について損保料率機構が認定した14級3号という判断(労働能力喪失率5%)を正当なものであるとした上で、後遺障害が継続する期間、つまり労働能力喪失期間について、症状固定時(36歳)から、67歳までの31年間とした。
 なぜこの判例を取り上げたのかというと、通常、後遺障害等級が14級の障害の場合、労働能力喪失期間は、3年から5年とするのが実務の大勢だからである。特に、日弁連交通事故相談センターで示談斡旋を受けるような場合は、ほとんどの場合、3年から5年で示談案を作成することが多いようである。
 しかし、何事にも、原則には必ず例外があり、今回の被害者のように、67歳までの長期間にわたって、労働能力喪失期間が認められる場合もある。
 問題は、今回の事故と普通の大半の事故を比べた場合、どの点が大きく違っているのか、ということである。本件の被害者は、損保料率機構の認定に対し、異議を申し立てたが、損保料率機構からは、前回と同じであるという回答を得た事実がある。したがって、損保料率機構の最初の判断にミスがあったとはいい難い。また、東京地裁も、被害者の後遺障害の等級は14級3号であると判決していることからみても、損保料率機構の認定に不当な点はなかったといい得る。
 そこで、事実を調べてみると、この被害者は、事故に遭ってから7年も8年も医療機関にかかっていたという特徴があった。本人の意識では、事故後、数年間の治療では治らなかったという事情がうかがえる。ただし、東京地裁の判決を読むと、平成11年2月発生の事故の後、同年9月に手術を受け、主治医は、手術後3年が経過して症状は固定したと判断していることなどから、裁判官も、平成14年9月には症状が固定したと考えている。
 このように、事故から約3年半後には症状が固定した、という司法判断がある一方、被害者本人が長年にわたって医療機関にかかっていたという事情は無視することができず、その結果、67歳までの31年間という長期間にわたる逸失利益が認められたといえるのではなかろうか。
 本件から得た教訓は、後遺障害等級14級の事故事案の場合、弁護士としては、労働能力喪失期間は3年から5年で決まり、と短絡的に断定するのではなく、より事案に即した損害賠償請求をする余地がないか否かよく検討する必要があるということである。
 交通事故事件に限らず、弁護士は、普通の人々とは異なった、高度の法的専門知識があるという理由又は前提で、一般市民から有料で法律相談を受けたり、着手金をもらって訴訟の委任を受けたりするのであるから、当該弁護士は、自分が有する高度の専門知識を最大減に活用して、依頼者に有利な解決策を考え出す必要がある。
 逆にいうと、一般の市民が、実際には高度の専門知識がない弁護士に対し、(弁護士料金が格安である、知人から紹介を受けた、今までの付き合いがあるなどの理由で)うかつに事件を委任した場合、その後になって、思ってもみなかった不利な結果が出る可能性が高まるということである。

日時:14:52|この記事のページ

蛭子能収著「蛭子の論語」を読んで

2016年02月19日

 以前、蛭子能収(えびす よしかず)さんの「ひとりぼっちを笑うな」(角川新書)を読んだことがあり、著者である蛭子氏の考え方に大いに共感を覚えたことがあった。
 今回、蛭子氏が、同じような内容の本を角川新書から出したのを書店で見て、上記の本「蛭子の論語」を購入した。基本的な内容は、以前の「ひとりぼっちを笑うな」に近い。ただ、今回の本は、中国の有名な古典である「論語」を一つの材料として使ってある。
 その試みは面白いが、しかし、必ずしも成功しているとは思えなかった。なぜなら、論語の意味を蛭子氏自身が解釈して、その解釈が本に記載されているのであるが、所詮、素人の自己流解釈の域を出ておらず、ほとんど参考にならないためである(むしろ、余計なスペースを割いてしまったという印象が残る。)。したがって、今回の企画は、以前の本と比較すると、余り売れないのではないか、と予想する。
 そのようなことはともかく、今回の本を読んでみると、蛭子氏のユニークな考え方が書かれており、自分としては、その内容に、ほとんど同意できるのである。蛭子氏は、競艇が趣味とのことである。月に数回、平和島の競艇場に足を運ぶらしいが、あくまで楽しむために通っているのであって、お金を儲けるために行っているのではないということだ(81頁)。まさに、理想的な姿勢である。
 蛭子氏が一番大切にしていることは、自由である(154頁)。この点は、蛭子氏でなくとも、大半の人がそのように考えているのではないだろうか?蛭子氏のいう「自由」とは、心身ともに何人にも束縛されないということである。人に気兼ねすることなく自分のやりたいことをやるという意味である。
 ここで、自由であるためには、お金が必要となる。日々の生活を送る上で安心感を得るためには、お金が要るということである。蛭子氏は、命と自由の次に大事なものは、お金であると言い切る(231頁)。その点は、私としても完全に同意できるし、世間の大半の人もそのように考えているのではないだろうか。
 弁護士業を長年にわたって続けている私にしても、弁護士業が面白いから継続しているのではなく、主に、自由を保つことができ、また、生活できるだけの収入を得ることができたためである。
 弁護士の中には、「弁護士は自分にとって天職だ」と言う人もいる。大変に尊敬できる考え方であるし、そのように公言できることは羨ましいくらいである。しかし、私にとっては、弁護士業は、若き時代において、選択の対象となった多くの職業のうちの一つに過ぎないのである。
 仮に、私が、現在20歳代だったとしたら、おそらく弁護士業は、選択の対象には入っていないのではないか。ここ10年ほどの間に、弁護士の数がバブル的に増大したため、供給過剰となって、お金(収入)の面から見た場合、仕事としての魅力が極端に色あせたためである。かといって、弁護士と並ぶ自由業である医師はどうかと言えば、やはり選択の余地はない。正直なところ、私は、日々、病人の体を診る作業が基本的に好きになれないのである。
 話が逸れたが、蛭子氏は、非常に重要なことを本書で述べている。この点は、前の本にも強調されていたことであるが、他人に迷惑を掛けないということである(155頁)。自分の自由を尊重するのであれば、他人の自由も同じく尊重する必要があるということである。孔子流に言えば、40歳にもなって他人に迷惑を掛けて、憎まれるような人は、もうおしまいだ、ということである(242頁)。
 ところが、世間にはこのような非常識な輩が多くいる。弁護士の仕事の一理念として、「社会正義の実現」という言葉があるが、そのような厚顔無恥な輩の法的責任を追及し、あるべき姿を取り戻すことも弁護士の重要な役割ということができる。

日時:10:48|この記事のページ

交通事故示談斡旋について

2016年02月02日

 交通事故の被害者が、加害者に対して損害賠償を請求しようとする場合、大きく見て方法は三つある。
 一番目は、被害者が弁護士を立てて加害者と交渉するという方法である。いわゆる示談交渉という方法である。この方法の利点は、手間暇がかからないということである。反面、短所として、間に入る第三者が存在しないことから、うまく交渉がまとまるか否かが不透明であるという点があげられる。
 二番目の方法は、今回、やや詳しく解説する方法であり、日弁連交通事故相談センターの示談斡旋(じだん あっせん)の申立をするという方法である。被害者が、示談斡旋を申し立てるに当たり、特に費用はいらない。また、被害者自身が申し立てることも可能である。
 しかし、示談斡旋を適法に申し立てるための要件がいくつかある。
 第1に、加害者側の損保会社から、あらかじめ、「賠償額の提示」又は「賠償金額の計算書」のような書面が出ていることが必要である。
 第2に、事故をめぐる過失割合について双方の意見が一致している必要がある。仮に、過失割合について主張が異なる場合は、示談斡旋を申し立てることができない。
 第3に、後遺症について、双方の見解が一致している必要がある。例えば、被害者が「自分は14級に該当する後遺障害を負った」と主張し、これを損保会社が認めないような場合(「非該当」であると主張する場合)には、示談斡旋を使うことはできない。
 このようにして、示談斡旋の申立が、交通事故相談センターで受理された場合、第1回の期日が指定される。
 第1回の期日は、原則として双方が出席する。その場で、示談斡旋担当弁護士2名から、いろいろな質問が出るので、申立人である被害者と、相手方である損保会社の担当者は、それに答えることになる。
 比較的簡単な事件の場合、第1回目に、示談斡旋担当弁護士の方から、「賠償額としてはこの金額が適当ではないかと考えます」という斡旋案が提示される。当事者双方は、その斡旋案をいったん持ち帰り、第2回の期日において、諾否を明らかにするということになる。双方が「承諾」した場合、示談斡旋が無事成立することになる。
 示談が成立すると、賠償金は、数週間後に、被害者の指定する銀行口座に振り込まれ、一件落着となる。
 なお、事件によっては、第1回目の期日において、双方が「承諾」することも多く、その場合は、当然ではあるが、第2回目の期日は開かれないことになる。
 このように、示談斡旋の場合は、第三者が間に入ることで、双方の利害がうまく調整されることになるし、また、2人の示談斡旋担当弁護士は、交通事故問題に詳しい弁護士によって構成されることになっているため、斡旋案の内容も信頼できると言える。
 上記のとおり、示談斡旋は、被害者自身が申し立てを行うことも可能であるが、申立書の作成等に時間がかかり、また、示談斡旋の時に、質問に対しどのように答えれば一番よいかも分からないことが多いことから、出来る限り、交通事故を専門とする弁護士に委任するのがよいと考えられる。
 当事務所では、一件当たりの着手金は、原則的に20万円と設定している(消費税別)。また、報酬金は、損保会社の提示額を上回った場合に限り、増額分の20パーセントを原則的にいただくことにしている(消費税別)。
 さて、被害者が加害者に対し損害賠償を請求しようとする場合に、三番目の方法は、訴訟である。訴訟の場合、時間も費用も相当にかかるため、最終的な解決手段ということになる。
 ただし、被害者の方が、自動車保険の弁護士特約に加入している場合は、300万円までは弁護士特約でまかなうことが可能であり、実質的に言うと、弁護士費用が300万円以内に収まれば、被害者自身の負担はゼロということになる。

日時:13:30|この記事のページ

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