本日から、しばらくの間、最近出された交通事故関係の判例の中で、私が気になったものを取り上げて紹介したいと思う。今回、紹介するのは、東京地判平成25年1月16日判決である(交民46巻1号49頁参照)。
この判決は、被害者の後遺障害等級について損保料率機構が認定した14級3号という判断(労働能力喪失率5%)を正当なものであるとした上で、後遺障害が継続する期間、つまり労働能力喪失期間について、症状固定時(36歳)から、67歳までの31年間とした。
なぜこの判例を取り上げたのかというと、通常、後遺障害等級が14級の障害の場合、労働能力喪失期間は、3年から5年とするのが実務の大勢だからである。特に、日弁連交通事故相談センターで示談斡旋を受けるような場合は、ほとんどの場合、3年から5年で示談案を作成することが多いようである。
しかし、何事にも、原則には必ず例外があり、今回の被害者のように、67歳までの長期間にわたって、労働能力喪失期間が認められる場合もある。
問題は、今回の事故と普通の大半の事故を比べた場合、どの点が大きく違っているのか、ということである。本件の被害者は、損保料率機構の認定に対し、異議を申し立てたが、損保料率機構からは、前回と同じであるという回答を得た事実がある。したがって、損保料率機構の最初の判断にミスがあったとはいい難い。また、東京地裁も、被害者の後遺障害の等級は14級3号であると判決していることからみても、損保料率機構の認定に不当な点はなかったといい得る。
そこで、事実を調べてみると、この被害者は、事故に遭ってから7年も8年も医療機関にかかっていたという特徴があった。本人の意識では、事故後、数年間の治療では治らなかったという事情がうかがえる。ただし、東京地裁の判決を読むと、平成11年2月発生の事故の後、同年9月に手術を受け、主治医は、手術後3年が経過して症状は固定したと判断していることなどから、裁判官も、平成14年9月には症状が固定したと考えている。
このように、事故から約3年半後には症状が固定した、という司法判断がある一方、被害者本人が長年にわたって医療機関にかかっていたという事情は無視することができず、その結果、67歳までの31年間という長期間にわたる逸失利益が認められたといえるのではなかろうか。
本件から得た教訓は、後遺障害等級14級の事故事案の場合、弁護士としては、労働能力喪失期間は3年から5年で決まり、と短絡的に断定するのではなく、より事案に即した損害賠償請求をする余地がないか否かよく検討する必要があるということである。
交通事故事件に限らず、弁護士は、普通の人々とは異なった、高度の法的専門知識があるという理由又は前提で、一般市民から有料で法律相談を受けたり、着手金をもらって訴訟の委任を受けたりするのであるから、当該弁護士は、自分が有する高度の専門知識を最大減に活用して、依頼者に有利な解決策を考え出す必要がある。
逆にいうと、一般の市民が、実際には高度の専門知識がない弁護士に対し、(弁護士料金が格安である、知人から紹介を受けた、今までの付き合いがあるなどの理由で)うかつに事件を委任した場合、その後になって、思ってもみなかった不利な結果が出る可能性が高まるということである。
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