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弁護士日記

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岐阜高島屋の解体費用は誰が負担するのか

2024年05月28日

 私が住む岐阜市内には、岐阜高島屋という百貨店があり、本年7月末をもって閉店する。つまり営業を無期限で停止すると聞く。地元の人であれば誰でも知っていることであるが、この百貨店は、岐阜市の中心部の中でも特に中心部に位置する。隣接して市内で一番高いと言われるマンションが建っている。付近の地価は、おそらく岐阜県内でも最高ランクに位置するはずである(ただし、正確にはJR岐阜駅前の地価が一番高いとされている)。
 ところが、この百貨店が今年の夏に無くなるのである。私個人は、この百貨店が自宅から徒歩10分以内の至近距離にあるため、1階と地下にある食品売場をしばしば利用していた。また、9階にある書店(大垣書店)もときどき利用していた。しかし、それ以外のフロアーは全く利用したことがない(例外として、数年前に傘と革靴を買ったことがある程度である)。通常、店内はお客の姿が余りなく、いつも閑散としていた。活気というものが全く感じられなかった。当然であるが、幹部従業員の「顧客第1の精神」は希薄であったと感じざるを得ない。したがって、閉店というニュースを聞いても余り驚かなかった。
 本日付けの岐阜新聞1面によれば、「ビル解体 進まぬ交渉」という見出しが載っていた。記事を読むと、賃貸借契約の終了に伴って、ビル解体の問題が発生するが、岐阜高島屋の親会社の高島屋が解体費用の負担を拒否しているということが分かった。一方、地主側の会社は、高島屋に対し、高島屋の自己負担によるビル解体を要求しているらしい。また、記事の3面を読むと、「高島屋が撤収時にビルを解体して更地にするという内容の取り決めの存在は両者とも認識している」、しかし、賃借人側の高島屋は、地主側の会社つまり賃貸人が、設備を更新しなかったことを問題視しているとも報道されている。また、新聞記事によれば、ビル解体の費用は最低でも10億円かかると試算されている。
 この状況を法的に見るとどうなるか?土地賃貸借の基本については、民法に条文がある。原則として、原状回復義務が借地人にあり(民622条・591条1項)、高島屋の方で、ビルを解体する義務がある。しかし、民法の特別法である借地借家法13条によれば、借地権者は、賃貸人に対し、建物を時価で買い取るべきことを請求することができる(建物買取請求権)。民法と借地借家法は、一般法と特別法の関係にあるため、特別法である借地借家法が優先して適用される。しかも、当該条文は借地人を保護した強行規定とされている(借地借家法16条)。したがって、借地人にとって不利な内容の合意は無効となる。なお、本件契約が定期借地権である場合は、原則どおりとはならず、別途考察が必要となる。
 では、仮に円満な交渉が頓挫して、双方で裁判に至った場合、どのような結末を迎えるか?
 法的に、高島屋は、賃貸人側の会社に対し、営業を完全に終えるビルを「時価」で買い取れと請求することができる。問題は、設備が老朽化したビルなど、時価といってもゼロ円に近いものとなるのはないのか?という疑問が出てくる。したがって、仮に高島屋が建物買取請求権を行使しても、自分が受け取れるお金はゼロ円になる可能性が高い。しかし、高島屋はそれで十分満足であろう。今や利用価値を失い無用の長物と化した老朽ビルを自社の資産から切り離し(結果として、賃貸人の所有物とすることによって)、この地から無傷の状態で撤退することが可能となるからである。この場合、賃貸人側の会社は、所有者としての立場で、老朽化したビルをこのまま所有し続けるか(この場合、無駄な経費が年々累積することになる)、あるいは10億円を自己負担してビルを解体・更地化し、その後、当該土地を第三者へ売却あるいは共同開発することになろう。今後、いずれとなるかは不明である。これが、目下の私の見立てである。
(追記)
 ここで留意すべき点は、法的解決を求める当事者が裁判所に訴えを起こしたからといって、必ずしも迅速に正当な判決が下る保障はないということである。新聞報道を手掛かりに調べたところ、2015年に発生した粗大ゴミ処理施設の火災をめぐる事件において岐阜地裁は、E環境プラントが岐阜市に求めていたゴミ処理報酬の支払い請求を棄却した。しかし、控訴されてその判決が名古屋高裁で変更された。名古屋高裁は、本年5月17日付けの判決で、岐阜市に対し1億2200万円の支払いを命じた。本年5月18日付けの岐阜新聞記事によれば、岐阜市の柴橋市長は「弁護団と判決内容を精査し、今後の対応を考えたい」と発言したという。当該コメントは無難な内容であるが、しかし、仮に最高裁に上告(または上告受理申立)したとしても、通常、最高裁において高裁の判決が覆ることはほとんどないため、今更、岐阜市が判決内容を精査し、上告(または上告受理申立)をしても、時間と税金の無駄遣いという結果となる可能性が極めて高い。そのような暇があるのあれば、当時の担当職員の事務処理が適切なものであったか否かを検証した方がよい。
 また、岐阜県本巣市の真正中学のグラウンドの所有権をめぐって、岐阜地裁は、所有地を不法に占拠されたとして地元の男性が本巣市を訴えた事件において、男性の請求を棄却したが(原告敗訴)、控訴審である名古屋高裁は、男性の訴えを認める逆転勝訴判決を下した(ただし、判決日は不詳)。本年5月29日付けの岐阜新聞記事によれば、本巣市は上告を断念したという。本件では、男性による民法の取得時効の成否が争点とされたようであるが、名古屋高裁はこれを認めた。時効取得という論点は、民法の論点の中でも、基本中の基本と言い得る重要論点である。その初歩的解釈を間違えた岐阜地裁の裁判官の力量には一抹の不安が残る(裁判官のレベルが、昔と比べて低下しているのかもしれない)。
 このように、岐阜地裁は、当事者の一方が権力を持った行政主体(市や県を指す)や有名企業ないし法人の場合、行政主体等に有利な判決を下す傾向があるように感じる(ただし、この点はあくまで私見にすぎず、事実を立証する統計資料があるわけではないことに留意されたい)。しかし、これはおかしい。裁判官は中立公正を旨とする仕事である以上、法と証拠に基づいて、常識に沿った正しい判決を出すよう努力すべきである。

日時:12:47|この記事のページ

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