この本の著者である佐藤優氏は、1985 年に同志社大学大学院で神学を修めて外務省に事務官として入省した。その後、2002年に背任の疑いで逮捕され、現在起訴休職中の身分である。佐藤氏は、主にロシアを対象としたインテリジェンスの仕事に就いていた。インテリジェンスとは、日本語に直すと「情報・諜報」を意味する。スパイ映画では、007のジェームス・ボンドが有名である。しかし、現実の情報員は、決して映画のような派手なアクションは行わず、あくまで地味に振舞う。もちろん情報員が、自分から身分を明かすことはなく、表面上は、外交官、学者、ジャーナリスト、経済人などに偽装して相手国に赴くようである。そして、佐藤氏によれば、現在世界で最強のインテリジェンス国家は、英国、イスラエルそしてロシアの3国とされる。
ロシアは情報大国の一角を占める。そのロシアの前大統領であるプーチンは、子供の頃、KGB(ソ連国家保安委員会)を訪問し、ここで働きたいと希望したところ、「志願してきた者は採用しない。軍の出身者か大学の卒業生しか採用しない。」と言われたという。そこで、少年プーチンは、猛勉強してレニングラード大学法学部に入学し、静かに勧誘を待ったところ、4年生のときにKGBから勧誘があって、就職することができた。
その後、ソ連が崩壊し、エリツィンが初代ロシア大統領になり、その後継者として指名を受け、現在に至る。プーチンは、国内でのテロ行為の基地であったチェチェンに進攻し、軍事力でこれを圧倒しテロの目を摘んだ。その結果、ロシア国内での人気が強まり、政権が安定した。その後、プーチンはKGBで培われた情報能力をフルに発揮し、政敵を倒して、次第に強力な権力基盤を確立していったことは周知のとおりである。
この本には、新聞や雑誌には書いてない興味深い話がいろいろ紹介してある。日本の国益を守るには、情報・諜報活動を通じて得た資料をよく分析して、何が一番国益にプラスになるかを判断することが大事である。一部の左翼系言論人のように、単に「戦争反対」と唱えるだけでは、あまりにも無策すぎる。これらの傾向を有する人々は、日本が再び戦争を起こさないようにするにはどうすればよいか、という発想しかないように私には思える。現在の世界情勢は、そのような単純なものではなく、むしろ外国が日本に対し、いろいろと理由を付けて戦争を仕掛けてくる可能性の方が100倍高いと、私は考える。現に、日本の近隣には、民主主義の理念とは相容れない共産主義独裁国家が複数存在する。目下世界的に注目を集めるチベット問題を参考にして熟考した場合、日本としては、中国という軍事大国に対しては、表面的には平和友好関係の維持発展を唱えつつ、内心では十分な警戒心をもってその動向を注視する必要があるように思える。
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