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弁護士日記

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エドワード・ルトワック著「戦争にチャンスを与えよ」(文春新書)を読んで

2017年05月12日

 今回の連休中に、エドワード・ルトワック著「戦争にチャンスを与えよ」(文春新書)を読んだ。著者のエドワード・ルトワックは、現在、アメリカのワシントンにあるアメリカ戦略国際問題研究所で上級顧問を務めているという人物であり、肩書は、「戦略家」、「歴史家」、「経済学者」、「国防アドバイザー」と多彩な才能の持ち主らしい。学位としては、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学で博士号を取得した経歴があるとのことである。
 アメリカという国は、誰にもチャンスが与えられる自由の国と言われるが、実は、学歴がかなりの重要性を持つ国と言われる。例えば、同じ弁護士資格を持った若者であっても、どこの大学のロー・スクールを卒業しているかで、卒業時の待遇に著しい格差があり、ハーバード大学などの超有名大学のロー・スクールを卒業している者には、大都市の有名大手法律事務所から、高額の初任給の提示があり、「うちへ来ませんか」と就職の勧誘が行われる。反面、誰も知らないような無名大学のロー・スクール卒業生では、どこの法律事務所も相手にせず、仮に法律事務所に就職がかなったとしても、初任給は低額であり、貧乏弁護士人生をスタートさせることになる。
 さて、話を本書に戻す。ルトワック氏がこの本で述べることは、まさに発想の逆転と言える。我々の常識とは、「戦争は悲惨なものであり、なるべく戦争を起こさないように各国が努力しなければならない」というものではなかろうか?
 確かに、いったん戦争が始まると、国民は大変な生活を強いられ、また、地域が壊滅的な打撃を受けることも予想できる。だから、戦争は起こさない方が良いに決まっている。
 しかし、ルトワック氏は、戦争の目的とは、平和をもたらすためにあると言う。どういうことかと言えば、戦争が終わって、勝者と敗者が決まった段階で、双方とも、国家や地域社会の再建を始めることになり、再び、平和が到来することになる。ここで、勝敗を決することなく中途半端な停戦などの解決を行うと、結局、戦争状態が継続することになり、国家の復興が始まらないという悪い結果をもたらすというのである。
 確かに、世界を見たときに、延々と戦争を行っている地域に限って、戦争の途中で停戦協議が開始され、協定がまとまってしばらくの間は戦争状態が止むが、すぐに停戦協定は破られ、再び戦闘状態が開始している。いつまでたって、その地域に恒久的な平和は訪れないのである。
 そのような状況下では、難民支援とか戦争難民を支援するNGOが地域に入り込み、結局、難民となった民族を難民状態で固定化してしまう。当の難民も、援助に頼ることが当たり前の状況となってしまい、いつまでたっても難民状況から抜け出すことができなくなる。ルトワック氏は、国連やNGOによる難民支援は害悪をもたらすだけであると言う。この発想には、私も、なるほどと思った。
 対中国問題について、ルトワック氏は、中国政府の外交は特異な構造を持っており、中国外交部(外務省)が収集した情報は、支配層である習近平には全く届いていないと言う。普通の国との外交交渉であれば、その国の外務省(または大使)を通じて、その国に対し、我が国のいろいろな意思を伝達することができる。
 しかし、中国はそのような構造をとっておらず、普通の国に通用するような外交術は、全くの無駄と言う。私も、これまでの中国の武力を背景とした強権外交には心底から憤慨しており、ルトワック氏の指摘を支持する以外にない。
 また、ルトワック氏は、尖閣問題については、今何もしないで様子を見るという選択肢は下策であって、少なくとも我が国の意思を表す手段をとっておくべきであると言う。どういうことかと言えば、仮に中国政府の命令を受けた武装漁民(一見すると漁民に見えるが、実は人民解放軍から軍事訓練を受けた民兵を指す。)が尖閣諸島に上陸してしまってから、我が国が奪還を目指した行動をとるのではなく、むしろ、そのようなことが発生しないようにするため、すぐに我が国の自衛隊または警察部隊を尖閣諸島に駐屯させておくべきである、と言う。この点も私としては賛成である。
 強盗に入られてしまってから、家の中にいる強盗を逮捕しようとするのではなく、強盗に入られないように家の戸締りをしっかりとしておくべきだというのである。全く理にかなった話である。
 ルトワック氏は、中国について、「巨大で不安定な隣国」と表現する。そして、中国の経済は、今も拡大しているが、「問題は、そのような中国の対外政策が、アフリカの小さな独裁国家のように不安定であることだ」と喝破する。そして、中国の対外政策の特徴として、第1に、16年間の短い期間のうちに、3回も対外政策を変更している点をあげる。第2に、独裁制であることが変化していないことをあげる。第3に、中国の政治システムは汚職で成り立っており、そのトップが習近平であると指摘する。
 本書には、これまでの物の見かたないし思考方法に疑問を投げかける注目すべき論述が多くあり、私としては、是非、一読をお薦めしたい図書の一つである。

日時:13:38|この記事のページ

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