昨年の12月から今年の初めにかけて、高中正彦弁護士が著した「判例 弁護過誤」(弘文堂)を通読した。本書の構成は、「緒論」と「過誤事例」から成る。緒論には原理原則が丁寧に書かれている。また、過誤事例には、いろいろな場合が細かく論じられている。
緒論には、我々弁護士が日頃気をつけなければならない点が、格言方式で掲載されている。弁護過誤に陥らないための留意点が書かれている。ここで、高中氏が説かれる7つの要点について、順次紹介したい(本の8頁から12頁まで参照)。
第1条 「むやみに人を信用するな」
ここでは、弁護士がその職務を遂行するに当たり、依頼者(又は第三者)の主張することを鵜呑みにして頭から信用することの危険性が書かれている。依頼者の利益を図って職務を遂行するということと、依頼者の言うことをそのまま信用するということとは、根本的に違う。
我々弁護士は、ともすると、依頼者の言い分を額面通りに受け取ってしまう傾向がある。しかし、客観的な状況や証拠に照らすと、その言い分が嘘であることが後になって判明するということは、しばしばあり得ることであって、この点は十分に気を付ける必要があろう。そうしないと、ピエロのような役回りをさせられてしまう危険がある。
また、場合によっては、相手方などから非難を受けることにもなりかねず、この点は、いくら強調してもしすぎることはないと言うべきであろう。
第2条 「こまめな報告はあらゆる過誤を根絶すると知れ」
依頼者と弁護士の信頼関係を維持するには、連絡を迅速に行うことが重要であると、高中氏は説かれる。報告が遅れると、信頼関係にひびが入る可能性がある。この点は、私も日頃から留意していることである。そこで、原則的に、重要な報告は、内容を書面化して送付することにしている。
第3条 「カッカとするな(常に冷静であれ)」
弁護過誤事例のうち、相当数が名誉棄損がらみのものとなっている。私の経験に照らしても、相手方の作成した準備書面の内容に立腹したことが何回もあった。しかし、高中氏は、この点を戒めている。「カッとなった結果、いわなくてもいいことをいったり、書面に記載したために、不法行為訴訟の被告となってしまった例は多い」と指摘している。
私の場合は、相手方から極めておかしな内容の準備書面が出たような場合、私の闘争心に火が点くことが多い。私としては、その事件に対し、普通の事件の何倍かの精力をそそぐことになるから、余計なことを言った相手方は、わざわざ不利益を招く結果となる。
第4条 「説明の腕を磨け」
高中氏は、ここでは、弁護士たる者、確かな法律知識と実務経験に裏打ちされた分かりやすい言葉で依頼者に説明をするべきであると、説かれる。私も同感である。
第5条 「すべての事件について手を抜くな」
高中氏の説かれるところは、当然のことであろう。
第6条 「カネに魂を売るな」
弁護士業は、いわゆる自由業であって、同じ法曹であっても、裁判官や検察官と異なって収入の保障がない。したがって、自分や家族、従業員の給料は、弁護士自身が稼いで用意する必要がある。
しかし、だからといって、金儲け主義に走ってよいということではない。ただし、過去何年間にわたる、合理的根拠を欠く「法曹人口激増政策」によって、世の中に不要な弁護士が多く誕生している。今後、上記政策が是正されない限り、金儲け主義に走る弁護士が年々増加するのではないかと危惧される。
第7条 「謙虚であれ」
弁護士は、他人からしばしば「先生」と呼ばれることがあるので、何か自分が偉い人物と評価されているのではないかと勘違いすることが大いにあり得る。特に、社会人経験を全く経ずに、学生からそのまま弁護士になったような、いわゆる「優秀な弁護士」は、特に要注意である。
私の経験に照らしても、弁護士と、それ以外の職業に就いている人々との間に、法律的知識・実務知識を除けば、人間的な違いは、全くないと言ってよい。
以上、高中氏の著作を紹介させていただいた。我々弁護士にとって、極めて有用な書物であると考えるので、広く、お勧めしたい。
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