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弁護士日記

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農水省課長通知に法令違反の疑義あり

2021年04月28日

 このたび、農水省の農地政策課長は、令和3年4月1日付けで「非農地判断の徹底について」という通知を出した。宛名は、各都道府県の農地担当部長となっている。以前から農地関係法令の改正動向を常にウオッチしている私は、さっそくその内容を見た。
 しかし、上記課長通知の内容を読んで、私は、この通知は農地法に違反した違法なものである可能性があると判断した。このようなことはあってはならない。そこで、本ホームページを通じて、全国の自治体担当者に対し注意を喚起する次第である。
 この課長通知は、「1 非農地判断の手続の迅速化」、「2 非農地判断した農地の地目変更登記について」、「3 非農地化した土地の農用地区域からの除外」、「4 現地確認が困難な農地について」、「5 フォローアップ」という構成である。
 このうちで、一番問題なのは、「5 フォローアップ」である。次のように書かれている。
 まず、第一に、農業委員会は、再生利用が困難な農地について、毎月末時点の非農地判断の実施状況を別添報告様式により、翌月の10日までに都道府県知事に提出する。都道府県知事はそれらの報告を取りまとめて、翌週末までに地方農政局に提出するものとする、としている点である。
 一体、農水省の一課長にそのような手間を要する作業を地方自治体に押し付ける権限があるのであろうか?正解は「全くない」ということである。確かに、農地法30条1項は、農業委員会に対し、省令で定めるところにより、毎年1回、その区域内にある農地の利用状況についての調査を行わなければならないと規定する(これを「利用状況調査」という。)。よって、農業委員会は、毎年1回は利用状況調査を行う義務があるといえる。これを受けて、国の通知「農地法の運用について」も、その第3・1(1)で「利用状況調査については、毎年8月頃に実施すること」と規定する。
 ただし、この国の通知は、いわゆる「法令」ではないため、地方公共団体を法的に拘束する効力はなく、8月に実施するのか、あるいは別の月に実施するのかは、各地方公共団体において適切に決めれば済むことである。
 ところが、上記課長通知は、平成21年12月11日に、農水省の経営局長と農村振興局長が連名で出した上記「農地法の運用について」という通知をも無視して、非農地判断の実施状況を毎月、都道府県に報告せよと求めている。
 確かに、当該課長通知は、利用状況調査を毎月行うことは求めてはおらず、単に、非農地判断の実施状況を毎月行うことを求めているだけであって、特に問題ないという弁解が出るかもしれないが、そのような詭弁は通用しない。
 なぜなら、毎月月末時点における非農地判断を的確に行うためには、事実上、毎月、現場で利用状況調査に近い作業を行わざるを得ないからである。まさか、課長通知は、利用状況調査は毎年8月に実施された調査の一回きりでよい、また、その後の非農地判断は、何もわざわざ現場に赴くことなく、農業委員会の机の上にある8月時点の資料で十分に行い得ると釈明するつもりなのであろうか?しかし、そんなはずはない。このように、今回の課長通知は、農地法の解釈を超えた違法な通知(違法通知)と言うほかない。農水省の課長の姿は、「百姓は生かさず、殺さず使え」と言った江戸時代の幕府の代官のように映る。
 いずれにしても、市町村の農業委員会は、毎月、非農地判断を行うか否かを含めそれを行う法令上の義務はなく、仮に納得できない場合は、それを拒否すれば足りる。拒否することは適法であって、違法の問題を生じない。国に対し「当農業委員会は、都道府県に対し、毎月報告するつもりはございません」と連絡すれば、国としては、それ以上何も言えないのである。
 次に、第二に、課長通知は、仮に農業委員会が、農水省の農地政策課長が要求する非農地判断を実施しようとしない場合、地方農政局長が、その農業委員会に対し、必要な助言を行うとしている。仮に助言を受けても、農業委員会が非農地判断をしようとしないとき、つまり地方農政局長の助言を無視した場合、「法第58条に基づき速やかに非農地判断を行うよう指示するものとする」と脅しをかけている。
 なお、農業委員会の行う「非農地判断」は、事実行為にすぎず、また、法30条が規定する「利用状況調査」とは全く別物という見解もあり得る。ただし、両者は密接に関連しており、その意味では、一体的に捉えるべき一個の事実行為であると解釈することも十分に可能である。
 このように、果たして地方農政局長に市町村の農業委員会に対する助言および指示を行う法的な権限が与えられているのかという点は、はなはだ疑問というほかない。
 まず、農地法58条1項の農水大臣の指示権であるが、農地法62条によって地方農政局長に大臣権限を委任することができる。
 次に、どのような機関の事務処理に関し指示を出すことができるのかの点が問題となるが、農地法58条1項を普通に読む限り、指示を出せる相手方は、市町村農業委員会である。また、同条1項のかっこ書において、農地法63条14号の事務が、指示可能な事務から除外されている。法63条14号の事務には、同法30条の規定により市町村が処理することができる事務のほか、多くの事務が明記されている。そして、同法30条の事務とは、農業委員会の行う利用状況調査の事務である。
 これらの条文を総合的に解釈すると、市町村の農業委員会が行う法30条の利用状況調査事務は、法58条1項の指示が可能な事務から外れ、結局、地方農政局長は、市町村の農業委員会に対し、指示を出すことはできないということになる。
 ところが、推測するに、農水省の課長は、法63条14号でいう法30条の事務については条文上「市町村が処理することとされている事務」と明記されているから、除外されるのは市町村が法30条の事務を行う場合であり、農業委員会が行う当該事務については、除外されていない、つまり指示の対象に含まれているという解釈をとっているようである。
 あるいは、利用状況調査にかかる事務と、非農地判断にかかる事務とは別個のものであり、通知対象から除外されるのは前者にすぎず、後者は依然として指示の対象となるとの珍解釈をとっている可能性もある。後者の事務を実施することを怠っている農業委員会に対し、法58条1項のいう「この法律の目的を達成するため特に必要があると認めるとき」に該当するという解釈をとって、指示は可能と理解しているふしもある。
 しかし、そのような解釈には無理がある(少なくとも、大方の了解を得られない、極めて技巧的な解釈である。)。
 なぜなら、第一に、法30条の利用状況調査事務を行う主体として、そもそも農地法が想定しているのは農業委員会であるという点をあげることができるからである(他の行政機関を想定することは困難であろう。)。
 また、第二に、法63条14号でいう「市町村」とは、対象とされる農業委員会を設置している市町村を指すものと解釈できるからである(市町村は、行政上の権利義務が帰属する行政主体であり、一方、農業委員会は、市町村の行政機関ないし行政庁という位置付けになる。)。農業委員会は、行政主体である市町村のために、農地法で認められた権限を行使するわけである。例えば、A市農業委員会が権限を行使することによって、その効果はA市自身に帰属するということである。
 今回の農水省農地政策課長の通知は、法律による行政の原則に照らし、違法通知の疑いが濃厚である。今回の事態から、農水省の職員の法的レベルが相当に劣化していることが推測できた。農水省は、誤りを素直に認めた上で当該通知を早々に撤回すべきである。
 

日時:17:21|この記事のページ

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