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弁護士日記

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賃貸借と解除条件(農地法ゼミ第3回)

2021年11月12日

1 一般に法律用語として用いられる「条件」とは、法律行為の効力の発生または消滅を、将来発生するかどうか不確実な事実の成否にかからせる法的概念を指す。条件には二つの種類がある。停止条件と解除条件である。
2 解除条件の場合は、民法127条2項によって「解除条件付法律行為は、解除条件が成就した時からその効力を失う」と定められている。つまり、法律行為に解除条件を付した場合、その解除条件が成就した時点で法律行為の効力が当然に消滅するということになる。
 例えば、貸主Aと借主Bの間で、A所有の自転車をBが月500円の賃貸料金を払った上で借りるという契約が締結されたとする(この契約は法律行為に該当する。)。ただし、特約が付けられ、仮に「Bが故意または重過失で自転車を破損させた場合、その事実が生じた時に賃貸借契約は効力を失う」と約束したとする。この約束は解除条件に当たる。
AとBの間で自転車の賃貸借契約の効力が発生した後、Bは、酒に酔った状態で自転車を運転し、誤ってガードレールに衝突させて自転車を壊してしまった場合、その時点で解除条件が成就したことになる。つまり、酒に酔った状態で自転車を運転し、結果、事故を起こしたことはBの重過失に当たると解釈できる。すると、自転車を破損させた時点で、Bは自転車を賃借する権利を喪失する。Aがその事実を知った後、改めてBに対し「契約を解除する」と告げる必要はない。
3 では、農地法は、解除条件について何か規定を置いているであろうか。実は明文の規定がある。農地法18条8項は、農地の賃貸借に付けた解除条件または不確定期限は付けないものとみなす、としている。この条文の趣旨は、仮に農地の賃貸借に解除条件を付けることを自由に認めた場合、通常は力関係で優位に立つ農地の所有者が、自分に有利となる解除条件を農地の賃貸借契約に付けることが予想されるためである。仮にそのようなことが生じた場合、耕作者(賃借人)の地位が不安定なものとなる危険がある。そのようなことにならないよう、農地法は歯止めをかけたものと解される。
 したがって、例えば、農地の賃貸人Cと賃借人Dが、「賃借人が賃料の支払いを3回怠った場合は、その時点で賃貸借は失効する」という内容の解除条件を定めたとしても、そのような特約(解除条件)は無効と解される。つまり、Bが賃料を3回滞納したとしても、依然として双方の間の賃貸借契約は有効に存続しているということになる。
4 ところで、上記農地法18条8項は、かっこ書において法律的に理解が困難な文言を定めている(立法上の過誤)。どういうことかと言えば、かっこ内で、農地法3条第3項1号ほかの条文を掲げ、これらの条文に「規定する条件を除く」としている点である。
ここでは「除く」と定めているのであるから、普通に読む限り、農地法18条8項において、一般的に解除条件を付することを禁止するが、これらの場合に該当すれば、例外的に農地の賃貸借において解除条件を付することを認めるという理解に至る。
 ここで掲げられている条文のうち、農地法3条3項1号は、農地の使用貸借契約または賃貸借契約が締結された場合に限定して、通常の3条許可要件と比較した場合、許可のための要件が一部緩和された規定となっている。一部緩和された許可要件が適用されるためには、同項1号では、許可後に使用貸借による権利者または賃借権者が借りた農地を適正に利用していないと認められる場合に、貸主(使用貸借契約の場合)または賃貸人(賃貸借契約の場合)が、使用貸借または賃貸借を「解除する旨の条件が書面による契約において付されていること」を求めている。
 例えば、農地法3条3項1号の適用を受けて、農地の所有者Eが賃貸人となって自分が所有する農地を、賃借人Fに賃貸したところ、1年後になってFが耕作を中止し、やがて賃借農地を耕作放棄地状態に至らせた場合、本号でいう「適正に利用していないと認められる場合」が事実として現実のものとなる。その場合、賃貸人であるFは本件賃貸借契約を解除することができる(仮に解除したくない場合はそのまま賃貸借の関係が続く。)。このような賃貸借契約をもって「解除条件付き賃貸借契約」と捉えているのが農水省である。(注)
5 しかし、このような理解は、誤りであると言わざるを得ない。なぜなら、農地法3条3項の構造上、賃借人が農地を適正に利用していない事実が客観的に生じたとしても、直ちに賃貸借契約が効力を失うわけではないからである。この場合、賃貸人が賃貸借契約の効力を失わせるためには、賃借人に対し、特約に基づいて契約解除の通知を行う必要がある。
 つまり、農地法3条3項の適用を受けた農地の賃貸借契約とは、解除条件を付したものではないということである。これは推測にとどまるが、農水省の職員は、条文で「解除をする旨の条件」と書かれていることから、条文を単純に短縮し、解除条件と呼んでいるのではないか(しかし、スマートフォンを短縮して「スマホ」と呼んでも全く問題がないこととは訳が違う。)。
 すなわち、解除条件という用語は、民法で明記された専門用語であり、学問上も解釈が定まっている。であれば、国会で制定される法律においても約束事を無視することは許されないはずである。そのようなことを知りながら(あるいは知らぬまま)、農地法3条3項1号の文言について、何らの説明ないし留保を付けることなく、「解除条件付き賃貸借」と公言する態度は遺憾というほかない。
(注)農水省は、2020年に発表した農地法研修会向けの資料「農地法第3条許可概要」の10頁で、一般法人が農地を借りるための許可要件の説明の箇所で、「貸借契約に解除条件が付されていること」と明記している。このことから、農水省は、農地法3条3項1号にいう「条件」とは、文字通り、解除条件であると認識していることが分かる。

日時:20:57|この記事のページ

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