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弁護士日記

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農地法3条3項1号の定める条件は解除条件ではない(農地法ゼミ第7回)

2022年06月03日

 私は農地法を長年にわたって勉強している。農地法についての解説書は、私がいろいろな解説書を出す以前は、昔、全国農業会議所という法人が出している本でほぼ独占されてきた。
 今でもこの法人から農業関係の解説書が出ており、私も時折参考にしている。今回私が問題とするのは、農地法3条3項1号である。この条文について、農水省は法的に間違った解釈を示しており、未だに訂正しようとしない。非常に頑迷である。よく考えると、これはとんでもないことである。農水省は国家の行政官庁の一つであり、言うまでもないが、建前としては、国民に対し正しい法律解釈を示す職務上の責務があるからである。
 この誤謬は、弁護士、裁判官または検察官という資格を持った法律家であれば、容易に発見できるミスである(仮に発見できなければ余程のぼんくらであろう。)。しかし、そもそも農地法3条の条文を詳しく読み込んだ法律家は余りいないであろう。そのため、ミスを発見する人もほとんどおらず、結果、批判する声も大きくならず、長年にわたって見過ごされてきたのである。おそらく農水省の現時点の担当職員は、実は法的にみて問題のある表現であることが分かっているのであるが、先輩職員がやってしまった事務的ミスを自分の時代に的確に指摘することに大きな心理的抵抗感があるのではなかろうか。
 法人の場合、農地の所有権を取得しようとしても、農地法2条3項の要件を満たした農地所有適格法人でないと認められない。つまり、農地法3条1項の許可が下りない。ところが、農地法3条3項を使えば、上記原則の例外として、一般法人であっても農地の権利を取得できる。ただし、取得できる権利は、賃借権又は使用貸借による権利に限定される。
 ここで、農地法3条3項柱書を呈示する。「農業委員会は、農地(・・・)について使用貸借による権利又は賃借権が設定される場合において、次に掲げる要件の全てを満たすときは、(・・・)第1項の許可をすることができる」と書かれている。農地法3条3項には3つの号があるが、理解を容易にするため、3項2号と3号は要件をクリアーしているという前提とする。そうすると、残るのは1号である。3項1号は、「これらの権利を取得しようとする者がその取得後においてその農地(・・・)を適正に利用していないと認められる場合に使用貸借又は賃貸借の解除をする旨の条件が書面による契約において付されていること」と定める。
 この条文の解釈は、例えば、農地甲の所有者であり賃貸人であるAと、当該農地甲の賃借人である法人Bが、農地甲について賃貸借契約を締結し、農業委員会で許可も受けたが、後日、賃借人である法人Bが農地甲の耕作を止めてしまい、荒れ放題の状況を呈している場合、賃貸人Aは賃貸借契約を解除できるということである。つまり、「適正に利用されていないと認められる場合」には賃貸人Aとしては解除権を行使できる旨を当初の契約で明記したということである。そうすると、普通の法律家であれば、このような文言を契約書に盛り込むことで、信義に反する行為をした賃借人Bとの契約関係を容易に断ち切ることを狙ったものであることが分かる。そうすると、この条項は、約定解除権の付与であり、解除特約の一種であるという理解に到達する。
 ところが、農水省の職員には民法の基本的知識が欠如しているためか、このような契約をもって「解除条件付き賃貸借」と称し、かつ、パンフレットまで作成した上で全国の農業委員会の職員に対し「そのように理解されたい」と宣伝を行っている。そのため、一部の関係者は思考停止状態に陥り、農水省が「白い猫」と言えば、現実には黒い猫であっても、異口同音に「白い猫です」と恭順の意思を示している。その姿にはプライドというものが全く感じられない。実に卑屈な態度と言い得る。
 なぜ、農水省の解釈が、「フェイク解釈」に当たるのかと言えば、民法127条2項には「解除条件付法律行為は、解除条件が成就した時からその効力を失う」と明記されているからである。民法の言う解除条件とは、ある条件が成就することによって契約の効力が直ちに消滅するものを指す。
 そうすると、農水省の言う「解除条件付き賃貸借」の「解除条件」という文言と、民法127条2項の「解除条件」という文言との相互関係が問題となる。仮に農水省の職員が、双方の文言の法律的な意味を同一と理解していた場合、賃借人Bによる農地甲の「不適正利用」の事実が認定された途端に、何らの意思表示も不要でAB間の賃貸借契約も当然に消滅することになる。しかし、このようなおかしな解釈は、農水省であっても採用していないであろう。なぜなら、農水省の立場に立っても、賃貸人Aから賃借人Bに対する解除の意思表示は必要とされているからである。
 このように分析した場合、間違いの根本原因は、昔の農水省の担当職員が、農地法3条3項1号について、能天気に「解除条件付き賃貸借」と呼んでしまったことにある。しかし、世間に対し、誤解を与えないようにするには、「解除条件付き賃貸借」という呼び方を正式に廃止し、今後は、「解除する旨の条件が付いた賃貸借」あるいは「解除特約付き賃貸借」とでも呼ぶほかないであろう。

日時:21:19|この記事のページ

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