最近は、私が被害者側の代理人を務めた判決が次々と出されている。
今回紹介するのは、平成22年の6月に後遺障害等級認定の手続きを依頼された高木さん(ただし、仮名です。)に関する事件である。
高木さんは、ある民間企業に勤務をされていたが、平成21年の春に、所用があって会社から顧客のもとに行こうとして徒歩で外出した。その際、前方から走ってきた車に正面から衝突された(その車の運転者は前方をまったく見ていなかった。)。
高木さんには、その事故による怪我のために、左上肢に後遺症が残った。また、顔に醜状も残った。そこで、当事務所に対し、自賠責保険の被害者請求を行い、後遺障害の等級認定を依頼された。
私はその依頼を受諾し、さっそく自賠責保険に対し、被害者請求を行った。自賠責保険は、高木さんの後遺障害について、外貌醜状の点は「男子の外貌に著しい醜状を残すもの」として12級14号を認め、左上肢の神経症状については「局部に神経症状を残すもの」として14級9号を認め、これらを併合した12級と判断した。
しかし、私はこの自賠責保険の認定には不服があった。そこで、平成23年の春に名古屋地裁に提訴し、争った。原告である高木さんの主張とは、外貌醜状の点は12級14号でかまわない、しかし、左上肢の神経症状は、12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当するというべきであり、これらを合わせると、併合11級になるという主張であった。
これに対し、加害者である被告は、たとえ男性である原告(高木さん)に外貌醜状があったとしてもそのことによって労働能力は低下しないという主張を行った。また、左上肢の神経症状は14級9号にすぎないと主張して争った。
判決は、高木さんの外貌醜状は、定年後の再就職等に当たって不利益を生じさせる蓋然性が高いとして労働能力の喪失を認めた。また、左上肢の神経症状については、12級13号に相当する後遺障害であると認めた。そして、これらを合わせると、併合11級になると認め、労働能力喪失率は20パーセントであると認定した。
従来から、男性の12級14号の外貌醜状については、逸失利益を正面から認める判例はほとんどなかった。今回、これを認めたことは大いに意義のあることであった。
なお、外貌醜状に関する男女間の障害等級に差別的取扱いがあるとして違憲判決を出した京都地裁の判決が平成22年6月10日に確定したことを受けて、自賠責保険は、平成22年6月10日以降に発生した交通事故については、男性の外貌に著しい醜状を残すものについて、女性と同じく障害等級を7級とするよう改正を行った(なお、男性の外貌に相当程度の醜状を残すものは9級に、男性の外貌に醜状を残すものは12級とされた。)。
京都地裁の判決が出るまで、男性の外貌醜状は直ちに労働能力の喪失には結びつかないという議論ないし認識が当たり前のように了解されていた。そして、これに対し、「それはおかしい」とする反対論が強く唱えられることはなかった。正に、「目からうろこが落ちる」とはこのようなことであろう。
いずれにせよ、高木氏が裁判を行ったことによって、自賠責保険による不当な後遺障害等級認定が覆されたのである。私は、過去に何回も同じような経験をしているが、今回も私が追求した結果が裁判所によって示された(裁判は確定している。)。
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