自転車で市道を走行中に、横道から出てきた自動車にはねられ、頭部に重傷を負った高校生の裁判の判決が本年1月に出たが、このたびその裁判が確定した。すなわち、被害者である原告も加害者である被告も控訴をしなかったため、名古屋地裁の判決が確定したのである。賠償命令額は、6464万円余りであった。
この交通事故は平成20年の夏に発生したのであるが、すぐに被害者の御両親が当法律事務所に法律相談をかけられた。その後、被害者本人は、治療を病院で受けられ、頭部の怪我は、外見上ほとんど治った。
しかし、頭部に大きな怪我をされたため、高次脳機能障害が残ってしまった。このような場合、一番重要なことは、自賠責保険において正しく後遺障害の等級認定を受けるということである。そのためには、経験豊富な弁護士の助力を受けることが望まれる。
高次脳機能障害とは、事故による外傷によって脳が障害を受け、その結果、事故前と比較した場合、本人の性格が変化したり、記憶力が低下したり、理解力が損なわれるなどの深刻な障害が生ずる。
したがって、交通事故による高次脳機能障害の場合は、頭蓋骨の外傷は一見すると元通りきれいに治ったとしても、脳の内部の障害は残っていることになるため、心理学的な検査を受ける必要がある。そのような検査は、専門的な知識が必要とされるため、必ず定評のある専門病院で診断を受けるべきである。単なる脳外科医のレベルでは全然適正に対処できない。
幸いにも、名古屋地区には、名古屋市総合リハビリテーションセンター附属病院という第一級の病院がある。したがって、東海地方の患者さんは、まずはその病院で検査やリハビリを受けるのが定石とされる、といっても過言でない。
さて、今回の依頼者である石川さん(仮名です。)は、上記病院が発行した診断書を、弁護士である私を通じて自賠責保険会社に提出し、併合4級の認定を受けた。併合4級の内訳は、高次脳機能障害が5級、醜状障害が12級であった。
その後、民事裁判は、平成24年7月から始まった。被告には東京の弁護士が代理人として付いた。裁判は1年4か月かかった(いわゆる結審は、昨年の11月であった。)。
本年1月に名古屋地裁が下した判決によれば、労働能力喪失率は、高次脳機能障害の部分に限って認められ、その割合は79パーセントとされた(なお、醜状障害の部分は労働能力に影響を与えないと判断された。)。また、労働能力喪失期間の始期は、石川さんが4年制大学を卒業するであろう年齢から、67歳までの期間とされた。
従来、高校生が被害者で、裁判係属中に大学生になった場合に、いつの時点から労働能力喪失期間をカウントするのかという点を明示した判例は、ほとんどなかった。その点が、今回の判決で明らかにされた。
また、今回の判決は、逸失利益の算定基礎となる年収として、男女計・大卒平均賃金である591万7400円を採用した。この点は、担当裁判官の先進的思考性を示すものであり、私としては高く評価することができる。
ただし、事故直後、石川さんが緊急搬送された病院にやって来た加害者は、石川さんの身内の方々に対し、病院内で土下座をして謝罪したという(この点は双方争いなし。)。私としては、実況見分調書などを見る限り、石川さんの過失はせいぜい5パーセント以内にとどまると判断していたため、石川さんに10パーセントの過失を認めたこの判決にはやや不満が残った。しかし、石川さん及びそのご家族は、きわめて心優しい方々であるため、その意向を踏まえ、弁護士である私としても控訴は行わないと決定した。
このたび判決が確定した結果、事故発生日からの遅延損害金を含めると、加害者が石川さんに賠償すべき金額は8200万円余りとなった。この賠償金も、本年2月中には加害者側から支払われる見込みである。
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