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弁護士日記

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名古屋地裁交通部との懇談会に出た

2009年11月20日

 今年も、11月17日に、日弁連交通事故相談センターの恒例行事となっている名古屋地裁交通部との懇談会が開かれた。名古屋地裁からは、民事3部(交通部)の部長である裁判官ほか5人の方々が出席された。これに対し、愛知県弁護士会の方からは、総勢30人以上の弁護士が顔を揃えた。
 最初の議題は、主婦の休業損害についてであった。主婦の休業損害については、従来から女子賃金センサスの年収を基礎として算定するというのが実務の大勢であった。しかし、主婦だからといって、女子の平均賃金を使うのはおかしい、男女を平均した全労働者の平均賃金を使って、基礎収入を定めるのが正しいのではないかという指摘が出た。また、一口に主婦といっても、例えばその主婦が他の家族の介護をしていたような場合はどうなるのかという問題がある。主婦が事故で入院し、そのために介護をする者がいなくなってしまったような場合である。そのような場合は、全労働者の平均賃金を基礎収入としてもよいのではないかという意見が出された。ただし、私見によれば、家族を介護する費用は、事故と相当因果関係がある損害として、主婦の休業損害とは別に請求することが可能ではないかと考える。
 次の議題は、交通事故にあった被害者に、事故後に比較的軽い後遺障害が残ったが、会社や役所から支給される給与額は事故後もほとんど同じであった場合に、果たして逸失利益を認めることができるか、という問題であった。
 この問題も古くから議論されている問題である。考え方としては二つあり、一つは、損保会社が支持するところの、収入の減少が現に生じていない以上、逸失利益を認める必要はないという見解である。他の見解は、主に被害者側弁護士が支持するところの、収入が減少しているか否かは問題ではなく、後遺障害を受けたという事実が重要であるという見解である。
 この問題について、被害者が、中小企業の営業マンであった場合、公務員であった場合を想定してさまざまな意見が出た。例えば、中小企業の営業マンであって僅かの減収が見られる場合はどうか。裁判所の意見によれば、被害者が営業マンであって事故による後遺障害を原因として手当が減らされているような場合は、自賠責保険で認定された後遺障害の等級に準じて逸失利益の計算をしてもかまわないのではないかということであった。
 一番問題は公務員の場合である。公務員は、身分が公務員法で保障されている。交通事故の後遺障害のために満足に職務が遂行できないような心身の状態になった場合は、任命権者によって分限処分が下され、将来的に昇進等に悪影響が及ぶことは必至である。しかし、後遺障害が残っても一応平均的に働けるということであれば、直ちに昇進昇格に悪影響が出るとは考え難い。
 裁判所の見解は、逸失利益は損害の塡補の問題であるから、減収がなかった場合は、必ずしも自賠責保険で認定された後遺障害の等級どおりの労働能力喪失率が認められるわけではないというものであった。
 そして、労働能力喪失率を算定するにあたり、事故後にどのような不利益ないし負担が生じているかを原告つまり被害者側で立証する必要があるということであった。特に、後遺障害によって現在の職務がどの程度差し支えるか、後遺障害によるマイナスをどのように本人の努力で補っているのか、職務の内容はどのようなものか、今後の人事異動によってどのような部署に配置される可能性があるのかなどをきめ細かく立証する必要があるということであった。
 裁判所から示された意見は、私としては大方、分かっていたことであるが、名古屋地裁交通部の現役裁判官から、じかに意見を聞けたことは、今後の訴訟にも十分活用でき、大変に実りのある懇談会であった。

日時:16:57|この記事のページ

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