一作年の秋に田中さん(仮名です。)から、交通事故相談を受けた。田中さんの話では、「横断歩道を歩いているときに、運送会社のトラックにはねられ、その後、いくつかの病院で治療を受けて、症状が固定した。高次脳機能障害という結果だった。保険会社から示談の話があったが、金額に不満があり、交通事故紛争処理センターに和解斡旋の申立をした。しかし、紛争処理センターの裁定案に不満があるので、裁判で解決したい。」との内容であった。今回、田中さんに示された交通事故紛争処理センターの裁定案は、「既払い金を除き、4939万円を支払う」という内容であった。
私は、田中さんの話を聞いて、争点は、労働能力の喪失率の数字であると考えた。また、交通事故紛争処理センターは、建前は中立ということになっているため、そこで示された裁定案を大幅に超える結果を獲得することは一般論としては容易ではないと感じた。交通事故紛争処理センターは、和解斡旋の申立をすると、センターの弁護士(1名)が双方から事情を聴きとって和解案を提示してくれる。和解案に不満があるときは、審査に回り、審査結果は裁定という形で示される。審査の結果について、被害者側に不満があるときは、被害者はこれに従う義務はない。
私の経験では、交通事故紛争処理センターで示される提案は、損保会社寄りのものが多く、被害者側には有利ではないとの印象が強い。そのため、私個人は、10数年以上前から、交通事故紛争処理センターは一切利用していない。
提訴は、平成28年の2月であった。ところが、損保会社側の弁護士は、訴訟を迅速に進めようという気がない。交通事故訴訟というものは、非常に難しい論点が数多くあるものから、通常レベルの論点が一つか二つあるだけの比較的簡単なものまである。今回の論点は、被害者である田中さんの労働能力喪失率の程度の如何、それだけであった。
ところが、損保会社の弁護士は、一体何を考えていたのかは知らないが、既に支出済みの治療費を認めない、つまり相当因果関係がないなどと主張し始めた。治療費は、既に損保会社の事実上の承認の下で、医療機関に対し支払われているのであるから、いまさら「事故との間に相当因果関係がない。認めない。」などと主張しても、裁判所がそのような不合理な主張を認めるはずはないのである。しかも、提訴後の準備書面にはそのような認否があったのであるが、提訴時からかなりの時間が経過してから、再び時間をかけて反論したいというのである。
しかし、そのような時間の無駄使いともいえる訴訟活動をやっていたのでは、どれだけ時間があっても足らなくなる。残業、残業の連続となって、やがては自分の健康も損ないかねない。このような姿は、「時代遅れ」という以外にない。
ちなみに、私の事務所では、事務員に原則残業はない(1年間累積で10時間以内)。私も、遅くとも午後6時までには仕事を切り上げている。私は残業が嫌いである。残業しなくて済むように、ものすごい集中力を発揮して、短時間で仕事を完成させるようにしているのである。
私は、一般論として迅速な訴訟進行を好む。迅速に事件を処理することが第一と考えているからである。したがって、最初から争点にもならないようなつまらない論点に無駄な時間をかけるようなことは極力やらないようにしている。つまらない論点に無駄な時間をかけて、結局、後になってから「やはり無駄であった」ことが証明された場合、過ぎ去った貴重な時間は決して戻っては来ないのである。私としては、今後も、「迅速かつ効率的な訴訟進行を心掛ける」をモットーとしてゆく所存である。
話がやや逸れたが、本年4月になってから、前月に裁判所が示した和解案を双方が承諾し、結果的に、6250万円ということで事件は解決した。この金額は、交通事故紛争処理センターの裁定案である4939万円を1311万円上回った。それなりの結果が出たので、私も田中さんから報酬金をいただくことになるが、田中さんは、自動車保険の「弁護士特約」に入っておられたため、報酬金のうち、300万円までは弁護士特約で補てんされるはずである。
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