日本の司法をあざ笑うようなゴーンの逃走劇が報じられてから1日経過した。ゴーンは、わが国の司法制度を愚弄し、バカにした。決して許されない行為である。どのような手を使ってもゴーンを日本に連れ戻す必要がある。
一体、ゴーンは、どのような方法で国外に逃亡することに成功したのか?
推理小説の作家が頭の中で作り上げた小説よりも、奇なことが現実に起こったのである。
逃走方法として、これまでに報じられているものは、木箱に入れられた状態で飛行機で国外に逃走したというものもあれば、偽造パスポートを使って係官を欺いて逃亡したというものもある。今回の出来事は、あたかもマジックショーで起こった出来事のようにも思える。マジックショーの興行を専門に行っているプロが関与していた可能性がある。
ただ、日本のような島国では、遠く離れた外国に脱出するためには、飛行機を使う以外に方法がない。もちろん、クルーザーに乗って沿岸から離れた場所に行き、そこで、迎えにきたヘリコプターに乗り換え、待ち合わせの空港まで行き、そこで待機しているプライベートジェット機に搭乗して外国に飛ぶという方法も不可能ではない。
しかし、普通に考える限り、空港で出入国の管理を担当している職員の目を欺いてゲートを不法に通過する方法が自然ではないだろうか。一般論として我々は、国外旅行をしようとする場合、パスポート(旅券)がない限り、日本を出国することもできないし、渡航先の外国に入国することもできない。そのことは、ゴーンも同様のはずである。パスポートなしにレバノンに入国することは不可能である(ただし、その場合、レバノンのパスポートでなくても構わない。フランス政府が発行したパスポートでもよい。ゴーンは、レバノン、フランス、ブラジルの3か国のパスポートを有していたと聞く。ただし、それらは全部弘中弁護人が保管しているということである。)。入国したということは、レバノンの係官に対し、自分のパスポートを提示できたということである。
その他、空港貨物に見せかけてプライベートジェット機まで運搬され、そこで周囲に気づかれないようにして、空港貨物である木箱から脱出し、秘かにジェット機に搭乗するという方法もあり、そのような方法が採用された可能性もある。この場合も、パスポートをレバノン入国に当たって提示していたはずである。
今回のことから生じた影響として、次のようなことが考えられる。
(1) 保釈とは、あくまで将来開かれる公判つまり刑事裁判の期日に被告人が必ず出頭するということが大前提となっている。このことを最初に確認する必要がある。出廷しない場合には保釈保証金を没収して、それでおしまい、つまり収支が合うということではない。保釈保証金の没収と公判への出廷は、対価関係に立たない。換言すると、必ず出廷するという保証がない限り、いくら高額の保証金を用意してもダメなのである。保釈は認められないのである。より正確に言えば、裁判所は、保釈を認めてはいけない。
(2) 今回、この点について保釈決定を行った東京地裁の裁判官は、どのように考えていたのであろうか?この点は、裁判官が記者会見するはずがないし、また、東京地裁からコメントが出る可能性も全くない。つまり、裁判官がどのように思っていたのかの点は、闇の中に葬られるということである。今後、明らかにならないということである。
しかし、今回、仮に裁判官がゴーンが逃げる可能性を少しでも感じつつ、あえて保釈の許可を出していたとしたら、事は重大である。考え方自体が根底から間違っているからである(証拠隠滅・逃亡の恐れがあると言えるからである。)。このような裁判官には、自発的に辞職をしてもらう必要がある。国民としては、安心して司法権の行使を任せておけないからである。
(3) 次に、責任を問われる可能性のあるのは弁護人である。弘中弁護人が、保釈を申請した際に、裁判所に対して具体的にどのような説明ないし論理を展開していたのかは不明である。
仮に裁判所に対し、「ゴーン被告が海外に逃亡するおそれは100パーセントない。皆無である。したがって保釈を認めるべきである」という内容の申請を行っていた場合には、ゴーンが逃亡したことを未然に防止できなかった結果責任をとってもらう場面が出てくる。
ただし、その責任とは、具体的な国民に対する普通の民事上の責任ではない。あくまで道徳的・倫理的責任である。したがって、法律による強制力になじまない。あくまで弁護士という職業に付随する倫理的な責任である。
(4) ネットなどを見ていると、検察庁の責任を問う声もあるが、これはお門違いである。担当検察官は、強く保釈に反対していたからである。つまり、「ゴーンを保釈してはいけない」と強く裁判所に求めていたからである。しかし、一裁判官がゴーンの保釈を認めてしまったのである。
今回の事件から、今後、増加が見込まれる外国人による犯罪については、保釈を安易に認めてはならない、という教訓が導かれる。少なくとも、保釈申請をする弁護士に対し、「仮に被告人が逃亡した場合は、弁護人として相応の責任をとる」という念書を入れさせるという方策が考えられる。この点は議論の余地がある。
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