最近気になった事件とは、東京高裁が、準強制わいせつ罪で、一審無罪のS医師を逆転有罪としたことに対し、日本医師会が、本年7月15日に、抗議をした事実である。これには、驚いた。医師会の会員である被告人をかばおうとする古い体質は、かつて「白い巨塔」で見た光景と同じだった。日本の医学界は、全く進歩していないと感じた。医師という仕事は、高度な医療技術者にすぎない。しかし、世間では、医師を「先生、先生」と呼ぶことが多いので、呼ばれている者のうち、自分は何か尊敬されるべき特別の存在であると勘違いする者も出てこよう。
では、なぜ上記のように考えるのか?以下、理由を示す。
世の中の人々の関心を集める刑事事件は、昔から数多くあった。刑事事件であるから、当然、裁判所において判決が言い渡される。世間で注目を集める事件とは、その大半が、被告人が無罪を主張しているのに対し、検察側が有罪を主張し、双方が真正面から争っている事件に限られる。
この場合、被告人が無罪になった場合、世間の大方の反応は、「冤罪であることが証明された」とか「警察・検察の捜査に問題があった」などというものが多い。
他方、有罪になった場合は、被告人の弁護に当たる弁護人グループが「不当判決許さない」などという抗議を行うのは日常茶飯事であり、そもそもニュースにならない。当然の光景だからである。弁護士は、国選であれ、私選であれ、裁判にかけられた被告人本人から、直接弁護の依頼を受けているため(ただし、国選の場合、弁護人の選任権は裁判所にある。)、尽力するのは当然である。
ところが、今回は、日本医師会がしゃしゃり出てきた。一体どのような立場で出てきたのか?正当な理由が見当たらない。また、一体誰に対して抗議をしているのか?普通に考えれば、逆転有罪を言い渡した東京高裁の裁判官に対し、抗議をしているのであろう。
しかし、このような行動は、医師仲間であるS医師を有罪にしたことがけしからんという、一時の感情に任せた不合理な行為にすぎないと捉えられる。例えば、S医師が所属する医療機関の医師たちが抗議をするというのであれば、同じ職場の仲間を助けるという意識の表れとも理解することできる。また、S医師の弁護団が抗議をするという場合も、理解できる。
しかし、S医師と全く無関係の日本医師会が、東京高裁の判決に対し抗議をするというのは、出しゃばった行為に当たる。すべきではない。
これは推測にすぎないが、利益団体(圧力団体)である日本医師会が、自分自身の利益を擁護しようとする目的があるのではないのか。新型コロナにより医師の発言力が注目を集める昨今、医師会は、何か思い上がっているのではないのか。
例えば、ある弁護士が顧客から預かったお金を横領したという理由で警察に逮捕され、後に地裁の刑事裁判で無罪になったが、二審(高裁)で逆転有罪になった場合、弁護士会が、高裁の判決に対し、抗議をすることは、100パーセントあり得ない。
仮にそのようなことを弁護士会が行った場合、裁判所から、「弁護士会よ正気か?それでも法律家の集まりか?司法試験を受け直して来い」とバカにされるのがオチだからである。
S医師は、東京高裁の判決を不服として最高裁に上告したとの報道を見たが、今回の日本医師会の不用意な抗議によって、かえって不利な状況に追い込まれたと私は考える。日本医師会が、いらぬことをしたばかりに、S医師は、むしろ不利益を被ることになるのではないか。
思うに、裁判官という人種は、何よりも職権の独立を尊重する(司法権の独立)。仮に個人(又は団体)が、裁判所に「不当な圧力」を加えようとすれば、これに強く反発するであろう。
今回の日本医師会の行動は、「不当な圧力」に当たると言われても、致し方ないであろう。
今後、最高裁は、S医師の上告を粛々と退け、S医師の有罪が確定する結果を迎える、と私は予想する。
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