2021年12月15日・16日の二日間にわたり、各2時間、日弁連ライブ実務研修を受けた。場所は岐阜県弁護士会の会議室の中である。
テーマは、「新しい土地法制の解説」であった。研修会の講師は、法務省の法制審議会において改正作業に従事された実力派の弁護士の方々であり、総勢3名である。事前に岐阜県弁護士会の事務局の方から、コロナ対策のため研修を受けられる参加者の定員は15名という通知があったので、定員オーバーになる前に申し込みをしようと考えた。そして初日の15日の定刻10分前に会議室に赴くと、私以外には誰もおらず、やや拍子抜けした。
コロナ対策のため、会議室の窓が少し開いており、やや寒かったが、研修を受けて新しい知識を獲得するのが一番重要であり、寒さなど何ともなかった。研修開始時刻になって数名の弁護士が入室してきた。しかし、参加した弁護士は、私を含めて合計しても4、5名にとどまっており、やや戸惑った。土地法制という国民に身近な非常に重要なテーマなのであるから、弁護士の関心も、もう少し高くてもよいのではないかと思ったからである。
さて、研修の内容であるが、初日は、相続制度の改正、共有制度の改正および相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する新法の解説であり、二日目は、相隣関係の改正、所有者不明土地等管理制度・管理不全土地等管理制度についての改正および不動産登記法の改正に関する解説であった。
いずれのテーマも非常に重要なものであり、今後、改正法が施行されると、それ以降は改正法による規律が実施されることになる。したがって、例えば、一般市民から法律相談を受けた弁護士も、改正法の内容を踏まえて回答ないし助言をする必要が生じる。仮に法律が改正されたことを忘れて、間違った回答・助言をした場合は、いわゆる「弁護過誤」ということになり、その弁護士自身に法的な賠償責任が発生するおそれも生じる。
今回の改正内容は多岐にわたるため、ここですべてを紹介することはできない。そこで、ここでは共有制度についてのみ紹介したい。所有権の共有とは、所有権を共同で所有しているという状態を指す。単独所有の場合は、所有権者である一人の者が、自分の一存で自由に所有物を使用したり、あるいは処分することができる。
これに反し、共有物の場合は、複数人からなる共有者(共有持分権者)が存在するため、合議をして決定する必要がある。ここで、合議をして決定するに当たり、共有者全員の同意つまり承諾が必要か、あるいは過半数の同意(賛成)で適法に決定することができるのか、という問題を生ずる。
従来の民法によれば、共有物を「変更」しようとした場合は全員一致が必要とされたが、「管理」にとどまる場合は、共有持分権者の過半数の同意でよかった。しかし、従来から、変更と管理のいずれに当たるのかが必ずしも明らかでない場合があった。そのため、客観的には管理に当たる事柄であっても、もしかすると変更に当たるのではないかとの疑念が生じ(この場合は全員一致が必要)、結果、共有物の円滑な利用が妨げられる事態も生じた(上記研修テキスト9頁参照)。
そこで、改正法は、従来の変更を二つに細分化し、変更(軽微なものを除く)と軽微な変更に分け、前者の変更については従来どおり共有持分権者全員の同意を要するとした。他方、後者の軽微な変更については、広い意味の管理の概念に含めるものとした。その結果、軽微な変更については、共有持分権者の過半数の同意で足りるとされた。
具体的には、共有物の形状・効用を著しく変更する行為は「変更」に該当するが、著しく変更しないものは「管理」に当たるとされた。例えば、共有持分が均等状態の共有者A・B・Cが共有する農地を転用し、非農地化しようとする場合は土地の形状・効用が著しく変更されるので、「変更」に当たり、3名が一致して賛成する必要がある。他方、これまで水田として長年にわたって利用してきた農地(田)を畑に変える行為は、単なる「管理」に当たると考えるのが相当であろう。すると、この場合は、3名のうち2名が賛成すれば適法となる。
今回の改正法が施行されるまでにはやや時間がある。それまでに、立法の内容を十分に咀嚼し、間違いのないよう対処したい。とりわけ、農地法を所管する農水省(本省)の職員は、採用の時点で必ずしも司法試験にも合格しているわけではなく、法律的には素人の域を出ない(法律家ではない)。今回の民法等の改正をうけて、今後農地法を改正しようとする際は、間違っても民法等の基本を誤解して不適切な農地法改正を招来しないよう、今から猛勉強する必要があろう。
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