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弁護士日記

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弁護士資格を有しない者による非弁行為について

2010年02月01日

 弁護士法72条は、弁護士資格を有しない者(非弁護士)による法律事務の取扱いを禁止している。この条文に違反した者は、2年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられる(弁護士法77条3号)。
 最近、弁護士資格を有しない者(行政書士志望者つまり無資格者)が、他人の法的紛争に介入する様子を、面白おかしく展開させるテレビドラマが某民放局で始まった。この番組は、違法行為を違法でないと国民に誤認させる危険があって、製作者の良識が疑われる。
 そこで、ここで弁護士法72条の内容を確認しておきたい。
 詳細をここで紹介するスペースはないので、要点のみ紹介する。なお、条文の紹介にあたり、弘文堂発行「条解弁護士法(第4版)」(日本弁護士連合会調査室編著)の606頁以下を参照し、かつ引用することを最初にお断りしておく。
 弁護士法72条は、弁護士資格を有しない者が、報酬を得る目的で、一般の訴訟事件その他一般の法律事件に関して、鑑定、代理、仲裁、和解その他の法律事務を取り扱い、または周旋をすることを禁止している。ここで、弁護士法違反となるためには、行為者に「報酬を得る目的」があることが必要である。これは、例えば、大学の法学部の学生有志が、学業目的で、市民のために無料法律相談を行うような場合、あるいは個人がその親族のために法律的な助言を行うような場合を想定している。そのような場合は、弁護士法に違反しない。
 次に、ここでいう「報酬」とは、必ずしも現金に限定されず、また、その金額の多少を問わないとされる。また、報酬を得る目的とは、依頼者と事前に報酬を得ることを約束した場合に限らず、法律事務を処理する途中あるいは解決後に依頼者が謝礼を持参することを予想していた場合も含まれる。行為者において主観的に報酬を得る目的さえあれば足り、現に報酬を得たことは、弁護士法72違反の成立要件ではない(結果として、無報酬だった場合であっても違反になる。)。
 ここでいう「法律事件」とは、法律上の権利義務に関し、争いや疑義があるか、新たに権利義務関係の発生する案件を指すとされている。例えば、100万円をBに貸したAが、Bに対し100万円の返還を求めたが、Bが「返済を待ってくれると約束したではないか」と言って、即時の返済を拒むような場合がその典型例である。このような法律事件について、弁護士資格を有しない者が、例えば代理人として関与して相手方と交渉すれば、弁護士法72条違反になる。もっとも、報酬を得る目的がない場合は、例外的に許されるのであるが、普通の人間が第三者の法律事件に関与した場合、報酬を得る目的がなかったとは到底考えにくい。
 過去の裁判例で、法律事務に該当するとされた実例として、被害者に代わって自賠責保険金の請求・受領を行うこと(東京高裁昭和39年9月29日判決)、交通事故の相手方と示談交渉をすること(札幌高裁昭和46年11月30日)、大家の代理人として店子と交渉し、建物賃貸借契約を解除すること(広島高裁決定平成4年3月6日)などがある。なお、ここでいう「法律事務」に該当するためには、当該案件が事件化している必要はない。
 また、同条にいう「鑑定」とは、法的な専門知識に基づいて法律事件に関し法律的見解を述べることである。
 ここで、行政書士が行い得る業務との関係が問題になる。行政書士は、行政書士法1条の2あるいは1条の3に規定がある業務を行うことができる。行政書士は、依頼者の求めに応じて権利義務または事実証明に関する書面を作成することはできる。しかし、例えば、被害者の求めに応じて損害賠償額を算定したり、あるいは本人の代理人として加害者または保険会社と交渉する権限はない。
 前者は、損害賠償額を算定すること自体が先に述べた「鑑定」に該当する疑いがあるからである(条解639頁)。後者の代理が許されないことは言うまでもないことである。この点について、北樹出版から発行されている兼子仁著「新3版行政書士法コンメンタール」43頁は、「事故責任を自認する加害者と過失割合や損害賠償金等の話合い・協議を被害者から受任した範囲で代理し、合意の示談書をまとめて自賠責保険支払い請求につなげることは、行政書士の合法的な契約締結代理業務に当ろう」とされるが、全然賛成できない。
 なぜなら、加害者が事故責任を自認していると断定できるかどうかが必ずしも明白でない場合があるし、また、加害者が事故責任を完全に自認していたとしても、しかし、過失割合の認定、事故と被害との相当因果関係の有無、後遺障害の有無および等級の認定、素因減額の有無など法律上の争点が含まれることが現実には多く、これらの判断はまさに専門的法律判断に属するからである(条解639頁)。
 さて、冒頭の論点に戻るが、行政書士はあくまで行政書士であって、それ以上でもそれ以下でもない。もちろん、彼らは、国民が共通して認識する意味での「法律家」ではない。世の中の約束事を踏まえようとしないドラマは、良識ある視聴者の支持を得ることはできず、近い将来、放送打ち切りになると、私は予想する。

日時:11:51|この記事のページ

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