テレビの報道番組などを見ていると、ときどき、世間に迷惑をかける輩のニュースが取り上げられる。
例えば、自宅の敷地に目的もなく大量のゴミ又は不用品を集めて、近隣住民に迷惑をかけている者とか、ハトや野良猫に餌をやって、そのことで迷惑を受けている住民から注意をされてもやめようとしない人間とか、河川敷を違法に使用して耕作を行っている輩とか、数え上げたらキリがない。
今日も、同じ町内の人間が、特定の賃貸アパートの所有者に対し何らかの恨みをもってアパートの前をうろついたり、アパートの前で立ち止まったり、注意した住民と口論をしたりしてトラブルを起こしているというニュースがあった。この男の場合は、家族も一緒に同居しているという。この男の場合、「やれるものならやってみろ。根性なしー」という暴言を、何度も対象となったアパートの所有者に吐いているという。これはけしからぬ行いである。
なぜ、このような横着者が跋扈しているのか?理由は簡単である。
第1に、刑事事件であれば、警察が動くことができる。刑罰を適用することで、横着者のとんでもない行動に歯止めをかけることができる。しかし、取り締まる法律や地方自治体の条例がない場合、警察は全く動くことができない。せいぜい、パトカーでやって来た警察官が口頭で注意するくらいで終わる。そうすると、横着者は、「何だ、警察も何も手だしができないではないか」と安心する。その結果、迷惑行為をやめようとしない。
第2に、刑罰による規制が難しいのであれば、民事的な方法で対処できないかということになる。そこで登場するのが民法709条である。不法行為責任を定めた条文である。
しかし、横着者を懲らしめるには、加害行為について横着者に故意又は過失が認められる必要がある。より難しいのは、横着者の行為が違法であるという立証である。違法性が認められない限り、いくら周囲の者が迷惑を受けていても、横着者の行動は違法とは評価されない。つまり、法的には問題ないという結果となる。
ここで、「受忍限度論」というとんでもない理論がわが国では脈々と支持されている。受忍限度論とは、簡単にいえば、横着者の行為によって迷惑ないし被害を受けた人がいたとしても、総合的に評価して、普通の人間の我慢の限界を超えていると考えられる場合に限って、はじめて当該行為が違法とされる、という理屈である。
したがって、普通のレベルの迷惑行為を周囲に及ぼしていても、お咎めなしという、おかしな理屈である。迷惑を周囲にかけていることが明白であり、近隣住民も被害を受けていることが間違いないとしても、「我慢の限界を超えていない」という理由で、法律上は問題ないということにされてしまう。要するに、被害者に対し「我慢できるだろう。そうであれば我慢しておけ。一件落着」という、被害者に対し非常に冷たい、間違った考え方である。
よく「法律は最低限の道徳」という。どういうことかといえば、世間の普通の常識に照らせば、間違いなく「やってはいけない行為」であっても、法律上は問題ないと判断される余地があるということである。
例えば、同じ町内の住民Aが、同じ町内の住民Bの家の前で立ち止まって、Bの家の者に対し「ぼろい家だな。よく住んでいるね。ははは」と、からかって毎朝路上で叫んだ場合、そのようなAの行為は道徳上は、決して許されるものでないことには異論がないであろう。
しかし、裁判になった場合、裁判所が採用する「受忍限度論」という、おかしな理論が働いて、この程度のことではAは裁判では負けないと予想できる。
騒音公害事件でも全く同様である。いくら、他人に深夜の騒音迷惑をかけていても、騒音被害が受忍限度内にあると裁判官が認定すれば、被害者は「泣き寝入り」する以外にない。このようなおかしな判決をするレベルの低い裁判官は多い。良くない現実について、裁判官自身が真剣に解決策を考えようとしないのが一番の原因である。
このような間違った考え方が、わが国では支配的であるため、テレビ報道でしばしば紹介されるような横着者が減らないのである。
仮に、このような横着者に甘い状況がいつまでも継続すれば、逆に、被害を受けた者が、加害者に対し、慎重に法に触れないような限度で、反撃を行うことも許されることになる。そうすると、反撃を受けた者はさらに悪意をもって新たな攻撃を試みる。加害と反撃の連鎖が起こる。というように社会が混乱する結果となる。
以上、社会の安念と平和を維持するためには、社会内で「本来やってはいけないことをあえてやる」横着者に対し、最初から厳しいペナルティーを与える必要がある。
横着者に対しては、刑事上も民事上も最初から厳しく対処しておれば、冒頭で掲げたような、はみ出し者が勝手気ままな行為をすることも減るのではないかと考える。
受忍限度論についても、民事裁判における被害者側の立証のハードルを大幅に下げて、迷惑を受けている被害者を救済する必要があると確信する。
Copyright (c) 宮﨑直己法律事務所.All Rights Reserved.