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弁護士日記

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保坂正康著「陰謀の日本近現代史」を読んで

2021年03月23日

 今回、保坂正康氏の「陰謀の日本近現代史」(朝日新書)を読んでみた。
 周知のとおり、この本の著者である保坂氏は、これまで日本近現代史を鋭く分析した数々の著作を著している作家のひとりである。
 本のまえがきを読むと、旧日本軍の軍人には謀略とか陰謀を行うに当たって当然に要求される深い洞察力や分析力が欠けていたと指摘する。その対極にある人物としてイギリスのチャーチル首相があげられており、当時、勢いを増していたドイツのヒトラーについて、全く信用しておらず、常に警戒心を怠らなかったという。
 そして、「チャーチルのような鋭い目は、謀略や陰謀を旨とする人物を見抜くのである。そしてチャーチルはヒトラーとは決して会わなかった。何やら陰謀の片棒を担がされるのはお断りという意味であろう。私たちはチャーチルを見習いたいものである」と述べる。
 この点は私としても賛同できる。ただ、仮に現代に話を置き換えた場合に、ヒトラーに相当する権力者は誰か?という点が浮かぶ。数年前、安倍内閣の当時、中国の習近平を国賓として招待する計画があったと聞く。
 私の目から見れば、とんでもないことである。習近平は、まさにヒトラーにも相当する危険な思想を持った人物であり、このような胡散臭い人物を日本に招くということは、西欧民主主義国家からすれば、「日本よ、何をやっているのだ」という非難が起こることは必定である。仮に実現していれば、まさにデタラメ外交が露呈していたところである。そのような外交日程を考えていた日本の外務省は、本当にダメな役所だと思う。
 さて、この本は、全部で4章から構成されている。あとがきを見ると、既に発表済みの原稿を集めたものであることが分かる。そのため、本としての体系性はない。ちょうど新聞記事の寄せ集めのような印象である。
 しかし、これまでいろいろな本で理解してきた話が、取材という過程を経て実証的に語られている点には重いものがある。印象に残った点は、以下のとおりである。
(1) 昭和16年8月に、アメリカのルーズベルト大統領は、イギリスのチャーチル首相と密かに会談し、アメリカが第二次大戦に参戦するための方策を練った(36頁)。どういうことかと言えば、ルーズベルト大統領は、アメリカ国民に対し欧州における戦争には参戦しないと公約していた手前、参戦する口実がどうしても必要だった。そこで、「まず日本にアメリカに対する軍事行動をとらせ、受け身の形で日本との間に戦争状態をつくる方針を立てた」(37頁)。
 また、アメリカの情報機関は、駐米日本大使館と日本政府との交信内容を密かに解読していた。つまり、日本の本音は全てアメリカに筒抜けという状況であった。重要機密は全部アメリカに握られていたということである。したがって、日本軍による真珠湾攻撃も、アメリカにとっては想定内の出来事だったのである。もともと国力に大差がある上、重要機密まで相手方に握られていたというのであるから、日本には万に一つの勝機もなかったのである。
(2) 東條英機という人物は、日本を率いる能力を欠く凡庸な人物であった。なぜ、そのような無能な人物が首相にまで上り詰めたのか?東條英機の経歴を見ると、陸軍大学を卒業している。保坂氏は、「東條は13歳から軍人に憧れ、陸軍の中で偉くなりたいと野心を抱いた。」(163頁)、「東條は海外情勢の分析に熱心でなく、国内の軍人の視線だけで世界を見ていた。」(同頁)、「昭和の軍人たちが冷静かつ客観的な思考法を持ちえなかった原因は、成績至上主義に尽きるだろう。」(165頁)と指摘する。
 この点は、今の日本にも当てはまるのではなかろうか。国政行政を支える霞が関のキャリア官僚は、国家公務員総合職の試験結果の良い順で、希望の省庁に入れると聞く。これはおそらく事実であろう。しかし、公務員試験で問われるのは、専門的知識、記憶力、推論力、論理の構成力などであり、受験に必要な、いわゆる「学力」に過ぎない。
 こんなものがいくら他人より優れているからといって、大所・高所に立って国家にとって何が最善なのかを判別する能力があるわけではない。それに加え、何をやっているのかよく分からない国会の会期中に、委員会における国会議員の数々の愚問に答えるため、深夜における書面作りなどに無駄なエネルギーを使わされる状態では、とうてい深い教養など身に付くはずがない。霞が関という極めてブラックな職場においては、平均人を超える有能な人材が育つわけがないのである。
(3) 大本営発表という言葉は、昔からしばしば聞いていたが、今回、本書を読んでみて、あらためて大本営発表が、いかに嘘と欺瞞に満ちたものであるかを思い知った。当時の軍部は、日本人を騙して戦争を継続しようとしていたのである。このようなことは、決して許されることではない。今日においても、行政機関が把握している情報は、良い情報も、悪い情報も、等しく正しく国民に伝えられる必要があると感じた。
 本書は、気軽に読める本ではないが、戦前の軍部による国家指導体制の問題点を掴むには適切な本であると感じた。

日時:22:03|この記事のページ

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