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弁護士日記

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新版事実審理(有斐閣)を読んで

2016年01月27日

 事務所の書架にあった古くなった法律書を整理整頓していたところ、棚の後ろの方から「新版事実審理」(岸盛一・横川敏雄著)が偶然に出てきた。本の奥付けをみると、昭和63年9月20日新版初版第5刷発行と書かれている。
 本の発行年からみて、私が、司法修習生だった当時に、おそらく司法研修所から推薦を受けた優良図書として、他の修習生と同じように購入したものに間違いない。本の頁をめくると、ところどころ赤鉛筆でラインが引いてある。重要な箇所を記憶に残すために線を引いたのであろう。
 ちょうど、暇な時間ができたので、本を読んでみた。そこに書かれているのは、昭和63年当時の刑事裁判に関する記述であるから、もちろん、現行の刑事訴訟法の内容とはかなり異なっている。
 しかし、基本的な物の考え方は、今も昔もほとんど同じである。また、刑事事件と民事事件では訴訟の構造が全く違うが、証人尋問に関する規制は、内容的に見た場合、ほとんど異ならない。
 この本は、第2章で「集中審理と交互尋問」という内容が書かれている。いろいろと傾聴に値することが書かれている。
 本書の33頁以下を見ると、交互尋問の重要性という点が強調されている。当事者である検察官又は弁護人が、証人尋問をする際の留意点が分かりやすく説かれている。
 本書は、第1に、尋問を行うに当たっては、裁判官の心証を形成するのに適切で、無駄のない問答をするということが重要であるとされ、裁判官にわからせることが肝心であると書かれている。全くその通りである。
 この点は、民事裁判であっても同様である。私の場合、民事裁判の委任を受けることがほとんどであるが、尋問を行うに当たっては、重要な争点について、裁判官に理解してもらうことを第1に心掛けている。尋問時間には制限があるため、自由に尋問できるわけではなく、質問項目を厳選して、重要ポイントになるべく多くの時間を費やすようにしている。
 本書は、第2に、上記した点にも関連するが、発問の範囲を訴訟上価値のある事項に限定することが肝要であると説く。私の経験でも、法廷で、相手方の弁護士が、余り意味のないような質問に多くの時間を費やしている姿を目にしたことがある。しかし、このような作業は、訴訟に勝つという目的からは、全く無駄である。
 中には、私が主尋問で時間不足のために省略せざるを得なかった事柄について、相手方の弁護士が、ご丁寧にも詳しい質問をしてくれた例もある。お蔭で、私が聞きたかったことを、相手方の弁護士が全部聞いてくれたというケースである。
 この点は、反対尋問をする際に気をつけなければならないポイントであり、専門書にも留意点として解説されていることが多いが、弁護士の経験が浅いと、余計な反対尋問をしてしまいがちである(私も駆け出し弁護士の頃は、余計な深追い質問をして、後で反省したことがある。)。
 本書は、第3に、法律上禁止されている誘導尋問や、伝聞を求める発問は慎むべきであるとも説く。当然のことであろう。ところが、経験不足の若手弁護士などの質問を見ていると、禁止されている誘導尋問や、伝聞証言を求める質問を何回も行う姿を目にしたことがある。
 このように、本書は、弁護士にとっては、有益な話が満載である。今では絶版になっていて、もはや入手できないかもしれないが、若手弁護士に対して広くお薦めできる本と言ってよい。

日時:10:34|この記事のページ

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