ジョージ・フリードマン著「100年予測」(早川書房)を読んでみた。この本の著者であるジョージ・フリードマンは、元アメリカのルイジアナ州立大学で地政学を教え、現在は情報企業であるストラトフォーのCEOを務める。
本書は、地政学という立場に立って、今後、100年間の世界の政治動向を予測する。我々は、まだ21世紀の入り口に立っているだけであるが、この本によれば、21世紀は、アメリカの繁栄が長期間続くと予想する。世界は、アメリカを中心に回らざるを得ないという。その根拠は、アメリカという国が地球上で置かれた地理的位置が大いに関係するという。太平洋と大西洋という二つの大洋に面していることがアメリカの強みとなっているというのである。二つの大洋に囲まれていることから、他の諸国がアメリカ大陸に侵攻するためには、強大な海軍力が必要となるが、現在、突出した強大な海軍力を備えるのは、アメリカだけであり、アメリカが他国から侵略を受ける危険はきわめて少ないという。それはうなずける指摘である。
次に、本書は、今後、アメリカ以外に勢力を増大する国として、日本、トルコ、ポーランドの3国をあげる(18頁)。その理由の詳細は、本書を読んでいただきたいが、本書は、日本の特徴として、経済政策や政治体制が大きく変わっても、社会において基本的価値観が確立しており、国内が安定しているという点をあげる。その理由として、日本社会には文化の連続性があって、社会的規律が守られているからという認識、また、島国であるため他国の影響を受けにくいという点が指摘されている。確かに、日本文明は、世界のどの文明にも属さない日本独自のものといわれており、また、つい最近も政権が交代したが、国内に社会的混乱と呼べる事態が全く生じていないことからも、原則的に肯定してよいと思う。
また、本書によれば、今後、日本が抱える重要な問題点は、労働力人口の減少に伴う労働力不足と、昔から指摘されていることであるが資源の大半を輸入に頼っているという構造的弱点である(212頁)。特に、前者については、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」が、2040年代後半には日本の総人口は1億人を切り、反面、65歳以上の高齢者人口は3800万人台に達すると予測している点が非常に懸念される(実に、総人口の約38パーセントが高齢者で占められることになる)。
そうすると、現在の労働力人口のおおよそ半分程度の人口で生産活動を維持しなければならないという厳しい現実が、現実のものとなる可能性が大きい。ここで、人口が減少しても国力が低下しなかった国は、世界の歴史上見当たらないという説がある。信ぴょう性の有無は確認できないが、私は正しい認識であると考える。わかりやすい例をあげれば、ある市の人口が単純に半減すれば、総生産額も総消費額も総収入額も半減することになる。そういう状態では、地域が衰退することは明白である。したがって、生産力を担う労働力の予備軍となる子供を増やす政策をとることが、長期的にみて日本の国力の衰退を防止する一番確実で効果的な方法である。そこで、まず政府が採るべき最重要政策は、子供を生み育てやすい社会をつくることである(子供手当のための予算は、他の予算を大幅に削減してでも、必ず満額を確保すべきである。)。
話がやや逸れたが、本書によれば、資源のほとんどを船舶を手段とした輸入に頼る日本にとって、シーレーン(海上輸送路)の確保は生命線である(216頁)。そのため、今後、日本は、独自に海軍力を増強する方向に進むと予測している。その結果、アメリカ建国以来の国是である「アメリカの覇権を脅かす国の台頭は許さない」という理念と衝突し、日米の利害対立が深まると予測している。
現在、日米安全保障条約についてはいろいろな議論があるが、この条約は、日本だけが利益を受けるものではない。アメリカ自身に大きな利益があるからこそ、アメリカは条約を締結したのである。私流の見方によれば、アメリカにとって、日米安全保障条約を維持する意味は、日本を事実上アメリカの支配下に置くためではないのか。アメリカとしては、日本が独自に軍備を増強して、アメリカが懸念をもつような事態が生じることは、実は困るのである。
本書は、我々が、日ごろ新聞やテレビで見聞きする意見とは、全く別の物の見方を提供してくれる。100年予想が本当に当たるかどうかは別として、休みの日にでも一読されることをお勧めする。
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