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弁護士日記

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宇都宮健児著「弁護士冥利」を読んで

2010年02月12日

 サラ金問題の第一人者である宇都宮健児弁護士による「弁護士冥利 だから私は闘い続ける」(東海大学出版会)を読んだ。宇都宮弁護士は、古くからサラ金問題を追及し続けた弁護士として、我々一般の弁護士の間では非常に有名である。宇都宮氏は、本書以外にも、サラ金問題の解決法を一般国民向けに分かりやすく説いた本を何冊も出しておられる。私も、有益な参考書として、氏の著書を何冊か購入したことが過去にある。
 ただ、宇都宮氏が、なぜこれほどまでに弱者救済の立場から、精力的な活動を続けておられるのかの秘密は分からなかった。しかし、この本を読んでその理由が分かった。
 宇都宮氏は、四国愛媛県西予市のある漁村で長男として生まれた。しかし、家族5人の生活は苦しく、宇都宮氏が小学校3年生のときに、一家は、大分県の杵築市にある開拓地に移住したそうである。そこで、父母は、林野を苦労して開拓し、少しずつ農地を増やしていったという。
 その後、宇都宮氏は、12歳のときに熊本市にある親類の家に預けられ、親類の家から地元の中学に通い、さらに熊本高校に進学し、昭和40年春には東京大学文科Ⅰ類に見事現役合格を果たす。宇都宮氏は、学校の授業だけで難関大学に合格したのである。現在、難関大学合格者の大半を占めるのは、両親の期待を背負って年少時から進学塾に通い、そこでひたすら受験テクニックを修得した者たちではないだろうか。宇都宮氏は、そのような、あたかも促成栽培の野菜に似た、ひ弱な精神の高校生たちとは全く違う。
 年少時に人よりも余分に苦労をした人物は、そうでない人に比べて、知らぬ間に身に着く精神力の強さが格段に違うようである。宇都宮氏の弱者救済にかける情熱の原点は、少年期の体験にあったと考えて間違いないようである。
 さて、宇都宮氏は、東大法学部に入った後に、弱者救済が出来る職業という理由で、弁護士を志すようになり、在学中に司法試験にも一発合格を果たす。
 ここまでの経歴を見る限り、普通は、東京の一流法律事務所に採用され、後はエリート弁護士の道がほぼ約束されたように思える。しかし、宇都宮氏が辿った道は、決して平坦なものではなかった。司法試験に合格し、司法研修所での2年間の研修を経て弁護士になったものの、宇都宮氏の場合は、同期の弁護士と比べ、独立がなかなか出来なかったのである。その理由について、宇都宮氏は、著書の中で、同期のイソ弁(居候弁護士、つまり勤務弁護士のこと。)が、中小企業の経営者とゴルフをしたり、同窓会などの機会を見つけて小まめに顔を出して名前を覚えてもらうことをしていたのに対し、そのようないわゆる「営業活動」をすることが苦手であったため、いつまで経っても、勤務先の法律事務所から独立することが出来なかったと語っておられる。そのため、雇用主である弁護士(ボス弁)から、「肩たたき」にあってしまったという。
 宇都宮氏は、その後もすぐに独立することが出来ず、仕方なく別の法律事務所に再び恥を忍んでイソ弁として入るが、そこでも、雇用主である弁護士から、「事務所を辞めて欲しい」と通告を受けるはめに陥る。そこで、背水の陣で事務所を辞め、独立する。
 宇都宮氏は、独立後は、サラ金から高金利で借金して多重債務状態に陥って苦しむ多くの人々の相談に乗って、身を粉にして働く。昭和55年当時は、サラ金問題に取り組む弁護士がほとんどいなかったという。確かに、現在でこそ、借り手に有利な最高裁判決も多く出て、過払金返還訴訟とか債務整理の手法もほぼ確立しているが、昭和55年当時を想像すると、弁護士がサラ金に立ち向かうことには、法律面で、言葉では表せないほどの苦労があったことと拝察する。その後、宇都宮氏及び関係者の努力が実って、平成18年12月13日に「新貸金業法」が国会で成立し、グレーゾーン金利が撤廃されることが実現した。このことについて、宇都宮氏は、弁護士人生の「最良の日」と述懐しておられる。氏がそうまで感慨を覚えられることも無理からぬと、私も思う。
 さて、話は変わるが、本年2月5日に開票された日本弁護士連合会の会長選挙において、宇都宮氏は、全国に52ある地方の弁護士会のうち、42会の支持を受けたが、会員数が圧倒的に多い東京弁護士会など9会の支持を受けた山本候補に、僅かの差をつけられた(1会は同点であった。)。しかし、会長選挙の規約上、当選するには、52弁護士会の3分の1以上の支持を受ける必要があり、未だ当選者が決まっていない。まさに、前代未聞の事態となっている。宇都宮氏は、規制改革と称した自民党政権下での方針によって、司法試験の合格者が急激に増加し、その弊害が表れているとして、年間合格者を1500人以下に抑えるように提唱しておられる。私も、これには大賛成である。
 司法試験は、その人物が法律家となることが本当にふさわしいかどうかを判定するための試験であるから、合格水準は客観的に厳格なものでなければならない。それを、小泉・竹中流の規制改革論者は、「法曹の数が増加すれば、それなりに需要も増加するはずである。」、「競争は絶対に良いことである。競争によって、能力のない弁護士は自然淘汰される。」との立場から、合格者を激増させることを是とした。
しかし、現実には法的な需要は余り増えず、「弁護士余り現象」が生じた。それどころか、能力は余りなくても営業のうまい商人のような弁護士だけが多く残る構造を生み出した。まともな需要予測もしないまま、いい加減な見込みだけで合格者を激増させたことは、まさに、かつて日本がアメリカを相手に太平洋戦争開戦を決意したのと同じくらい愚かな出来事であった(ところが、この事態に直面しても、かつての合格者激増論者は、誰ひとりとして責任を取ろうとしない。)。
私としては、宇都宮氏には是非、日本弁護士連合会の会長に当選していただき、真に国民のためになる弁護士会を作っていただきたいと思う。

日時:13:55|この記事のページ

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