052-211-3639

お問い合わせ電話番号
受付時間:午前10時~午後5時

電話でのお問い合わせ

弁護士日記

弁護士日記

世帯合算の適用要件(農地法ゼミ第1回)

2021年10月01日

1 ある人物Aが所有している農地の権利を、他人Bが取得しようとした場合、他人Bの権利取得目的が農業目的である場合は農地法3条の、また、転用目的である場合は同法5条の許可を受ける必要がある。許可を受ける必要があるのは、仮に許可を受けないと、権利の移転又は権利の設定の効力が発生しないためである。つまり、単に契約をしただけでは、権利移転又は権利設定の効力は生じない。
 例えば、農地の所有者であるAと隣人Bが話し合って、Aの農地をBが耕作目的(営農目的)で買い受けるという話がまとまったとする。この場合、AとBは、農地が所在する地の農業委員会に対し、許可申請をする必要がある。いわゆる双方申請の原則である。3条許可を受けて農地の権利(所有権)を取得できるのはBである。
 ここで、許可申請をしても必ずしも許可が受けられるわけではないことに留意しなければならない。農地法3条2項には農業委員会が許可を出すことができる要件が書かれている(正確には、不許可要件が定められている。いずれかに当たると不許可処分となる)。一番問題になるのは2項1号の効率的耕作要件である。その趣旨は、仮に農地の権利を取得しても効率的に耕作の事業が行えないような人物の場合は、権利を取得しても無意味となるから、許可を受けられないということである。
2 次に、効率的な耕作を行うことができるか否かを誰を基準に判断するかという問題がある(判断基準の人的範囲)。一番厳格な立場は、上記の例でいえば、農地の所有権を取得しようとする契約当事者のBのみについて判断するという立場である。ところが、農地法には、世帯合算という考え方があり(2条2項)、B一人だけで判断するのではなく、「住居および生計を一にする親族」の労働力も考慮してよいということになっている。
 例えば、Bが高齢の農家であり、自分では耕作の事業に従事する体力がない場合であっても、住居および生計を一にする親族、つまり、いわゆる同居の親族がいる場合、その労働力もカウントして許否の判断をしてもらうことができるのである。例えば、長男Cは親Bと同居しているが、CとBおよびその親族が皆で支え合って全体で効率的な農業をしている実態があれば、3条許可を受けることができる。
3 では、仮に、何らかの事情があって、長男Cが一時的に実家を離れている場合、つまり不在者状態にある場合はどうか?高齢の親Bしかいないので、許可を受けられないことになるのか?答は、許可を受けられる場合があるのである。その理由として、農地法2条2項1号~4号に示されている一定の場合には、もともと「住居および生計を一にする親族」が、一時的な事情で住居又は生計を異にしていて場合に限り、Bの住所において「住居および生計を一にする親族」つまり同居の親族とみてよいという特例的な取り扱いを定めているからである。
 したがって、例えば、長男Cが遠方の農業大学に就学しているような場合は、許可を受けられる。なぜなら、農地法2条2項は、療養、就学、公職への就任および省令で定める事由(刑の執行又は未決勾留)としているからである。今回、Cの場合、「就学」という事由に該当する。
4 ここで問題を提起する。現在、故郷の農村(甲市)から遠く離れた地(乙市)にある農業大学で学んでいるCが、甲市内にあるA所有の農地を耕作目的で取得することができるか?
 答は、できないということになる。理由は簡単である。Cは現に遠方の土地に住んでおり、仮に乙市内の農地を取得しても効率的に農地を耕作できないからである。また、Bは、3条許可を受けようとするCからみて「同居」の親族に該当しないため、世帯合算の原則を適用することはできない。
 では、仮に自分の父親であるBが甲市において農業経験が豊富で、かつ体力が十分あった場合はどうか?この場合も答は変わらない。子CからみてBは「住居および生計を一する親族」(Cと同居する親族)には該当しないため、Bの労働力をカウントすることはできないのである。
5 農地法3条は、誰が農地の権利を取得するのかの点に着目して、許可要件を定めている。今回の問題の場合、農地の権利を取得しようとするのはあくまでCである(cおよび親Bが共同で取得するのではない)。権利を取得しようとする者以外は、すべて第三者となるが、「住居および生計を一にする親族」に限り、例外的に、効率的耕作要件の判断にあたって取り込むことができる。ただ、Bは、それに該当しない。また、Bは農地法2条2項1号~4号のいずれの事由にも当たらないため、世帯合算が可能となる特例を使うことはできない。
 私見をまとめる。農地法3条の許可を受けようとする者(権利を取得し又は設定を受けようとする者)以外の者は、第三者に当たる。しかし、第三者であっても同居の親族に限って世帯合算が可能となり、許可要件の判断に当たっては考慮してもらえる。ただし、それまでは同居の親族であっても、出稼ぎなどの理由でその地を離れてしまうと、世帯合算の適用はできないことになる(同居していない状態に陥るからである)。しかし、就学などの一定の限られた事由に当たる場合は、同居していなくても依然として世帯合算の適用を受けることができる。
 なお、一部に、就学のために乙市内に居住する子Cが、甲市内にあるA所有農地の権利を取得しようとした場合に、甲市内で農業を営む親Bも世帯合算の対象となることを認める解釈がある。しかし、このような根拠不明の考え方には賛成できない。

日時:19:29|この記事のページ

ページの先頭へ

Copyright (c) 宮﨑直己法律事務所.All Rights Reserved.