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弁護士日記

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農地賃貸借と離作料(農地法ゼミ第4回)

2021年12月09日

1 長年にわたって農地の賃貸借関係が継続してきたが、これを解消しようとした場合、原則として都道府県知事の許可が必要となる。しかし、例外として、書面による合意解約の場合は許可が不要となり、通常この方法がとられることが多い(法18条1項2号)。
この方法は、農地を賃貸人に引き渡す期限(返還期限)の前6か月以内に成立した書面による合意解約という手法による。例えば、ある年の12月1日に返還期限を設定した場合、その半年前に当たる6月1日以降に書面による合意が成立している必要がある。
 このように賃貸人と賃借人の間で、賃貸借の目的物である農地を賃借人が賃貸人に返還する場合、統計資料を見る限り、ほとんどすべての場合に対価なく無償で返還が行われている。
2 ところが、農地の返還に当たって、賃借人が賃貸人に対し、離作料(離作補償)を請求することがある。しかし、離作料というものは、法令で認められた制度ではなく、賃借人において賃貸人に対し当然のように支払いを求めることができる権利を有しているわけではない。
 また、離作料の本質については、農業経営上の損失補償または賃借権消滅の対価という分析が一般的である。
 では、なぜ離作料というような慣行が存在しているのか。それは、賃貸人が農地の返還を求めているのに対し、一方、賃借人がこれを拒んでいるような場合に、同人に任意に同意してもらうための対価(承諾料)ということになる。
 双方が交渉をして、離作料の金額について合意に至った場合、賃貸人は賃借人に対し当該離作料を支払う。一方、賃借人は、賃貸借契約の合意解約書に署名(または記名押印)をする。そして、返還期限までに賃借人は賃貸人に対し、賃貸借の目的物であった農地を引き渡す。仮に賃借人が約束を破って農地を任意に返還しようとしない場合、もちろん賃貸人は賃借人を訴えて農地の引渡しを求める訴訟を提起して勝訴することが可能である。
3 次に、双方が交渉をしたが離作料について合意に至らなかった場合はどうなるであろうか。仮に賃貸人において農地の返還を求める相当の理由があり、可能な限り農地を返還して欲しいと考えているような場合は、農地法18条に従って許可を受ける必要がある。許可権者は原則として都道府県知事であるが、地方によっては、許可権限が自治体(市町村)に移譲されていることもある(この点は確認が必要である。)。
 ただし、許可を申請すれば、必ず許可を受けられるということではなく、法の定める許可要件を満たす必要がある。許可要件(許可基準)には6つのものがある。本件のような場合に適用が考えられるものとして4つある。①賃借人に信義則違反があったような場合(法18条2項1号)、②農地を転用することが相当な場合(同2号)、③賃貸人の自作を相当とする場合(同3号)、④その他正当の事由がある場合(同6号)である。
 仮に許可申請が上記のいずれかに該当したとしても、許可権者において、許可を出すための条件(ただし、ここでいう「条件」は、民法の定める条件ではないことに留意)として、申請者に対し離作料の支払いを命ずることがある。その性格は、行政処分の付款の性質を持つ。より正確にいえば、行政処分(許可処分)に付加される特別の義務である(このような義務は行政法学では「負担」と呼ばれることが多い。)。
 この場面では、許可権者は、申請者に対して許可を行うが、同時に許可を受けた者(申請者)に対し、離作料を賃借人に対して支払うことを命ずるわけである。許可が出された場合、許可を受けた賃貸人としては、賃借人に対し、適法に賃貸借契約の解約申入れを行うことができる。解約申入れを行ってから1年を経過することによって、当然に賃貸借契約は効力を失うことになる(民617条1項1号)。
4 ところで、許可権者が農地法18条の許可を求める申請があった場合に、果たして離作料の支払いを義務付ける付款を付けるべきか否か、あるいは仮に付けることが相当と考えられる場合であっても、具体的にどのように離作料の金額を算定すればよいのかが問題となる。
 そもそも、離作料については次のようなことが指摘できよう。賃借人は賃借権を有しているところ、確かに賃借権も一つの財産権であることから原則としてそれなりに尊重されるべきである。しかし、農地法が民法の原則を超えて賃借人の地位を手厚く保障しているのは、現に耕作に従事して農業生産を行い、またそれによって自分自身の生計を維持しているという状況を前提としているからであると解される。そのような耕作者についてはその地位を守る必要があるということである。
 他方、形式的に賃借権を有していても、現実には全く耕作をせず、長年にわたって事実上耕作放棄に近いような状況を生じさせているような賃借人の場合は、上記の前提を欠くため、賃借人として手厚く保護されるべき根拠ないし理由が欠ける。したがって、このような場合は、許可の付款として離作料の支払いを命ずる必要は原則としてないと考えられる。
5 また、仮に離作料の支払いを命ずることが相当と考えられる場合であっても、賃貸借の目的となっている農地の価格(地価)を基準に、その何割かを離作料として評価するというような考え方は妥当なものとはいえない。なぜなら、離作料を適正に評価しようとする際、離作に伴う農業経営上の損失を適正に補償すればそれで十分なはずだからである。離作料について、地価を基準にしてその何割かを賃借権消滅の対価とするような考え方は、目的農地がどこに所在するかという、農業経営とは基本的に無関係の事情に大きく影響を受ける不合理なものであって、支持できない。

日時:16:29|この記事のページ

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