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弁護士日記

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農地賃貸人死亡後の賃料請求権の帰属(農地法ゼミ第5回)

2022年02月05日

1 最初に設例を示す。農地甲の所有者であるAは、当該農地をDに賃貸していた。賃料(いわゆる小作料)は、毎年12月31日までに当該年分の賃料を支払う約束(後払いの約束)となっており、賃料の額は年間10万円であったとする。ある年、Dが当該年分の賃料を支払期限である年末までに支払わないまま年を越してしまったところ、年を越した1月1日にAが急死し、子B及びCが相続人となった。
 この場合、農地甲の所有権及びその賃料請求権は、相続人であるB及びCに相続される。まず、農地甲は不動産であることは疑いない(民86条1項)。不動産である農地の所有権は、Aの死亡つまり同人について相続が発生すると同時に、当然にB及びCの二人の相続人に引き継がれる。この場合、農地法3条許可を受ける必要はない。相続は意思表示によって発生するものではなく、人の死亡という事実に基づいて当然に発生するものだからである(民896条)。
 では、農地甲の所有関係はどうなるのであろうか。B及びCは、いずれもAの子であるから法定相続分は同じであり、Aが遺言を残して二人の相続分を変更したというような特別の事情がない限り、各人が2分の1の農地所有権を承継取得する。この場合は、遺産共有という状態に置かれる。遺産共有とは、遺産分割が終わるまでの暫定的な法的状況を指す。遺産分割の原則については民法906条に規定があるが、BとCの協議がまとまる限り、農地甲をどのように分けても適法である。例えば、Bが農地甲の所有権の全部を取得するという内容の分割をしても問題ない。この場合、Bの単独所有となる。
2 次に、賃料請求権はどうなるのか。その前に賃料請求権の性格を確認する必要がある。民法88条2項は、「物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物を法定果実とする」と定める。法定果実とは、土地や建物などの不動産、あるいは自動車などの動産を他人に貸した場合に対価として受ける賃料などのものを指す。物から発生する収益であるということから、法定果実と呼ぶ(ただし、私見によれば、このようなものを、あえて「法定果実」として民法典に定めておく必要性は薄いのではないかと考えられる。)。
 また、法定果実の帰属について民法89条2項は、「法定果実は、これを収取する権利の存続期間に応じて、日割計算によりこれを取得する」と定める。例えば、土地の所有権者兼賃貸人が、賃貸期間の途中で変更した場合は、期間中の賃料を期間の長短に応じて前所有者と現所有者で分配することになる。ただし、契約によって特約が定められている場合はそれが優先する。
3 ここで上記の質問に話を戻す。前記のとおり、賃貸人Aが死亡することによって相続が開始し、亡くなったAが賃借人Dに対して有していた1年分の賃料請求権も農地甲と同様、相続人B及びCに相続される。この賃料請求権は、金銭の支払いを目的とするので金銭債権に当たる。
問題は、この賃料請求権が共有債権(共有財産)になるのか否かである。最高裁判例はこれを否定している。すなわち、最高裁平成17年9月8日判決は、「遺産である賃貸不動産を使用収益した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である」と判示している。
 このことから、上記設例でいえば、B及びCは、各自5万円の金銭債権を確定的に取得していると解される(一部に「共有財産」になると誤解している者もいるようであるが、常に正確な法解釈を心がけて欲しいものである。)。なお、上記判例の中で、分割債権という用語が出ているが、根拠は民法427条にある。数人の債権者がある場合に、債権は平等の割合で分割されるという定めである(ただし、最高裁昭和24年4月8日判決は、相続の場合は法定相続分の割合で分割されるとしている。)。
4 ここで、仮に賃借人Dが、相続人の一人であるBから、「自分に10万円全額を支払って欲しい」と要請され、軽率にも、Bに対して10万円を支払えば債務がすべて消滅すると勘違いし、10万円全額を支払ってしまった場合はどうか。この場合、B・C間で賃料の受領権限をBに一任するというような特約がない限り、Cに帰属している5万円については、原則として支払いが無効となると解される。つまり、あらためてCから支払いを求められた場合に、Dはこれに応じなければならない(二重払いのリスク)。したがって、Dとしては、無用の不利益を被らないようにするためにも、慎重な行動が求められる。
5 仮にAが死亡時から丸1年が経過した時点で遺産分割協議が成立し、Bが農地甲のすべての所有権を継承することで話がまとまった場合、賃料請求権はどうなるか。まず、上記最高裁判例によれば、Aが死亡した時点で発生していた賃料債権はもとより、死亡後、遺産分割協議中の期間1年分の賃料債権も、やはり分割単独債権としてB及びCにそれぞれ帰属すると考えられる。一方、遺産分割が成立した時点で農地甲はBの単独所有となるため、それ以降に生ずる賃料債権はB一人に帰属すると解される。

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