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弁護士日記

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農地法相談室(その1) 転用許可後の事業計画変更について

2016年03月08日

 今回からしばらくの間、私の専門分野である農地法に関する質問を取りあげて、専門家の見地から答を出してみたいと思う。
 今回の事案は、転用事業者Bが、D県知事の農地法5条許可を受けて、所有者Aから農地を購入したが、Bはその直後、経営不振に陥って許可申請にかかる転用事業を行うことができなくなった。近所に住むCから、当該農地を買い受けて転用したいという希望が出ている。この場合、Bとしてはどうすればよいか?という事例である。
 農地の譲受人であるBは、転用事業を行うという目的・理由で農地をAから購入したのであるから、Bとしては、転用許可申請書に記載したとおりの転用事業を行う必要がある。つまり、D県知事は、Bが5条転用事業を行うことを条件として許可処分を出しているのである。したがって、仮に、Bが転用事業を行わないときは、D県知事としては、これをそのまま黙認することはできない。
 農地法51条1項は、その2号で、農地法5条1項の許可に付した条件に違反している者に対し、許可を取り消すことができるとしている。仮に、D県知事が、許可を取り消した場合、A・B間の法律関係に重大な影響が及ぶことがあり得る。そこで、「許可の取消処分」の意味が問題となる。
 許可の取消処分が、文字通り「取消し」という法的性質を持つと見た場合、許可処分は処分時に遡及して効力を失うということになる。しかも、この許可が法律行為の効果を補充して有効たらしめる効力を持つことを考え併せると、A・B間の農地譲渡行為も遡及して無効とならざるを得ない。
 他方、この取消処分を「撤回」処分とみた場合、撤回処分の効力は将来に向かって生ずるということになって、遡及はしない。つまり、A・B間の農地譲渡行為は依然として有効ということになる。上記の場合は、処分時に瑕疵があった、つまり許可を出すことがそもそもできなかったという場合ではないから、撤回処分と考えるべきである。
 Bとしては、D県知事による5条許可の取消しという最悪の事態を避けるためにはどうすべきか?本件の場合、近所に住むCから、問題となっている農地を買い受けて転用したいという希望が出ているのであるから、BとCは、連署の上で事業計画変更申請を行い、D県知事に承認してもらう方法がある。また、同土地は、依然として農地性を持っているから、事業計画変更申請と同時に、B・Cは、連署の上で5条許可申請書をD県知事に提出し、5条許可を受ける必要がある。
 仮に、今回のCのような存在が全くなかった場合、Bは、5条許可を受けたままの状態を継続するほかない。そして、仮に、Bが、D県知事からの、「早く転用事業を行うべきである」という内容の行政指導にも全く応えようとしない場合、D県知事としては、5条許可を取り消すほかないことになろう。
 しかし、上記のとおり、仮にD県知事が5条許可を取り消したところで、農地の所有権は既にBに移転してしまっている以上、依然としてBにあると考えられる。
 なお、AからBに対する移転登記については、Bが転用許可を受けた後に、5条許可書を添えて法務局に対し移転登記を申請していれば、移転登記は可能と考えられる。
 D県知事による5条許可取消処分の前に、既に、Bが所有権移転登記を済ませていれば、登記名義もBのままということにならざるを得ない。Bにとっては、農地所有権を確保し、かつ、登記名義(対抗要件)も備えた事実状態が継続するということになる。

日時:10:17|この記事のページ

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