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弁護士日記

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損保と闘う(5)(慰謝料の決め方)

2009年05月26日

 交通事故が発生して被害者が怪我をした場合に、一般に休業損害とか逸失利益などの財産的損害が発生することが通常である。しかし、損害は財産的損害に限られるものではない。交通事故による苦痛の発生つまり精神的損害が発生することも普通である。
 この精神的損害に対する損害の賠償を「慰謝料」という。慰謝料は、本来的に損害額を金銭に換算することができない性質のものと考えられている。例えば、ある人が交通事故によって右腕を切断する不利益を受けたとする。その場合、右腕を切断したことによる苦痛の程度は、当人しか分からないし、また、それを金銭で表すといくらになるかを証明することもそもそも不可能な話である。
 そこで、慰謝料は、裁判官が諸般の事情を具体的に考慮して、最も妥当と考えられる金額を自由に定めることができるとされている。しかし、そう考えると、事件によって、あるいは事件を担当した裁判官の個性によって賠償額が変動し、事故被害者間に不公平感を生むおそれが生じる。例えば、同じような被害を受けた者(AさんとBさん)がいたとして、Aさんの裁判では100万円の慰謝料が認定されたのにもかかわらず、Bさんの裁判では60万円しか認定されなかったということでは、Bさんとしてはとうてい納得がいかないという結果になってしまう。
 そのため、交通事故による慰謝料においては、損害賠償額の定型化・定額化が相当に推し進められている。これは、上記のとおり第1に、被害者間での公平を保つためという目的から来ている。また第2に、定型化・定額化を行っておくと、新たに交通事故が発生した場合に、被害者・加害者とも損害賠償額の目安というものが得られて、迅速に賠償問題の解決が図られるというメリットがある。具体的には、例えば、何日間入院したら、入院慰謝料は大体いくらくらいになるかが、いわゆる「青い本」とか「赤い本」を見れば分かるようになっている。
以上が原則である。しかし、これにはいろいろな例外がある。例えば、同じ入院でも、入院中に院内を自力で歩くことができたというような比較的軽い入院患者から、ベッドに長期間寝たきりの状態のため自力で体を動かすこともできなかったというような重傷事例まである。そのような場合に、単に入院期間だけを基準に慰謝料額が決定されたのでは、これまた不公平であろう。そこで、重傷事例の場合は、慰謝料額が通常よりも増額されることになっている。
 もうひとつの例外は、加害行為の悪質性とか事故後の加害者の対応がひどすぎるような場合である。例えば、同じ交差点での事故であっても、加害者が酒酔い運転で車を運転して人身事故を引き起こしたような場合は、その分だけ加害者の責任が重いと考えられ、賠償額も通常よりも増額されるのが一般的である。
 さらに、通常の事故であっても、事故後において加害者の態度に誠意がまったく見られない場合とか、暴言を吐いたような場合にも慰謝料を増額されることが多い。これに関連して、交通事故裁判になった後に、例えば、加害者側(実質損保会社である。)が、非常識な主張を繰り返したような場合はどうであろうか。典型例として、歩行者が信号機のある交差点を青信号に従って渡っていた場合に、赤信号無視の車が横断中の歩行者をはねて怪我を負わせたとする。このような場合、一般人の常識から考えれば、歩行者に過失は一切ないというべきであろう。ところが、その場合にもなお、加害者の方が、「ひかれた方も50パーセント悪い」と主張したらどうなるであろうか。これに似た事例で、裁判所が慰謝料を相当に増額して支払うよう加害者に命じた判例がある。
 仮にこのような場合においても、慰謝料が全く増額されないとしたら、民事裁判は被害者にとっては、交通事故に加えて、さらに第二の精神的苦痛を与えられる場となってしまい、著しく妥当性を欠くことになる。そのため、上記裁判所も「加害者よ、いくら何でも言い過ぎだ」ということで慰謝料を増額したのではないかと推測される。
 本来はあってはならないことであるが、現実の交通事故裁判においてもこれに近い事態がしばしば見受けられる。その場合に、被害者側代理人としては、決して見過ごすことなく、断固たる姿勢で加害者側の責任を追及することが肝要と考える。

日時:16:08|この記事のページ

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