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弁護士日記

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損保と闘う(6)(逸失利益について)

2009年08月03日

 逸失利益とは、交通事故の被害者が怪我の治療を終わって、これ以上良くも悪くもならない状態(これを「症状が固定した」と呼ぶことが多い。)に至った時点で、その被害者の体に残った後遺障害によって生じる損害のことを言う。
 例えば、交通事故によって右膝に大怪我をした被害者に、右膝関節の機能に著しい障害が残って、自賠責保険で後遺障害等級10級11号の認定が出たとする。その場合、被害者の右膝には相当に重い障害が残存していることは間違いない事実であるから、仮に交通事故に遭わなかった場合と比べた場合、当該障害のために、その人が本来有していた労働能力が低下(喪失)したと考えるのが筋である。すると、労働能力喪失分だけ、その人が将来得るべき所得も低下する蓋然性も高くなったと理解できる。そこで、将来減少すると見込まれる所得を、現時点で補償するというのが逸失利益の性格である。
 ところが、損保会社(及びその雇われ弁護士)は、上記のような明快な理論を理解しようとしないことが多い。その典型例は、たとえ事故被害者に後遺障害が残っても、所得が減少する事実が発生していない場合である。損保会社は、当人の所得が事故前と比べて減っていない以上、逸失利益の発生を認めようとしないのである。特に、被害者が公務員とか大企業のサラリーマンの場合がこれに当てはまる。
 しかし、このような損保会社の考え方は完全な間違いである。
実は、この点は古くから差額説と労働能力喪失説との対立として有名な論点となっている。差額説は損保会社の考え方に親和性をもつ。交通事故がなかったならば得られたであろう収入と交通事故後に現実に得られた収入との現実の差額を損害と考える。
 他方、労働能力喪失説とは、人の労働能力を一つの財産と考え、後遺障害による労働能力の喪失自体を損害と考える。これは、私の考え方に近い。
 差額説が間違っている主な理由は、次のとおりである。
(1) 差額が生じるか否かは、症状固定の時点又はこれに近い時点では分からない。逸失利益は、将来の収入減少を補償するという性格のものであるから、はたして収入に悪影響があるか否かは、長期的に検証してみないと何とも言えないはずである。したがって、「現時点で収入が減少していないから」という理屈は、余り説得力がない。
(2) 公務員や大企業のサラリーマンのように、現時点で収入が減少していなくても、それは本人が人並み以上の努力をして体のハンディを補った結果である場合も多い。また、職場で特に配慮してもらった結果、減収が当面表面化していないだけのことである場合も少なからずあろう。このような場合に、目の前に減収がないからと言って、将来発生するかもしれない不利益を被害者に一方的に負担させる考え方はおかしい。
(3) 公務員のように法律で俸給表が決定されている被害者であっても、後遺障害を有している場合と有していない場合とでは、将来予測は全く同じではない。後遺障害のために従事できる職種が制限されたり、職務遂行能力が他人よりも低く評価されたりして、結果的にマイナスの人事評価を受ける可能性は相当あると考えられる。その場合、収入が将来減少する蓋然性が高い。
 また、公務員の場合、身分保障制度が手厚いために収入減少が認められないことがある。その状態について、それは公務員制度が当人の損害を事実上カバーしている状態と考えることも可能である。このような場合に、損益相殺(被害者が損害賠償の原因と同一の原因によって利益を受けた場合に、被害者から当該利益を控除すること。例えば、被害者が、自賠責保険から損害賠償額の給付を受けた場合、それは既払金として賠償額から控除する。)とならないことは当然である。よって、制度上の保障によって、損害が事実上補てんされた結果として減収が認められない事態は、損害賠償額の算定に当たって特に考慮する必要がない。
(4) 減収の程度が自賠責保険の認定する後遺障害の等級よりも重い場合とのバランスを考える必要もある。例えば、上記の例で挙げた障害等級10級11号の場合、自賠責保険では、労働能力喪失率は27パーセントとされている。
 しかし、被害者の現実の減収状況が50パーセントを超えていたような場合はどう考えるべきであろうか。この場合、損保会社は、今度は、手の平を返したように、さっさと差額説を放棄して、「被害者はせいぜい27パーセントしか労働能力を喪失していない。」と主張するであろう(この場合に、実際の減収割合である50パーセント超の喪失率を素直に認める損保会社はほとんど見かけない。)。これでは、「ご都合主義」と言われても致し方あるまい。
 以上のことから、逸失利益は、基本的に労働能力喪失説に従って理解するのが正しい。
 このような正しい結論に到達することは、事件によっては必ずしも容易なことではないが、私としても、日々の訴訟において担当裁判官の理解を得るよう努めているところである。

日時:16:52|この記事のページ

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