弁護士日記の読者の皆さんは、依頼者の代理人となった弁護士が、裁判所と相手方の弁護士に提出する準備書面というものをご存じであろうか?
準備書面とは、訴訟で問題となっている事実関係とか、法律上の争点について、一方当事者の主張を書いたものであり、裁判を進める上で極めて重要な意味を持つ。
それは、交通事故を原因とする損害賠償請求訴訟を例にとれば、被害者が、どのような怪我をして、どのような損害を受けたかなどの争点について事細かく記載してあるからである。
原告のAが代理人を通じて準備書面を出した場合、その直後の法廷では、その準備書面を基に、次回の裁判の予定が立てられる。したがって、相手方である被告Bの代理人弁護士としては、裁判が行われる期日の前に、原告Aが主張している内容をよく読んで、あらかじめ裁判の当日にどのように被告Bの反論ないし主張を展開するかについて検討を加える必要がある。
そのため、名古屋地裁の交通部(民事3部)は、ことあるたびに、双方当事者は、おおむね1週間前までに準備書面を裁判所と相手方の当事者に送付するよう心掛けることを求めている。
そのような運用になっていることは、普通の弁護士であれば誰でも知っている常識である。したがって、特に、裁判所から注意を受けなくとも、一部の弁護士は、おおむね1週間前までに準備書面を提出しているようである。ところが、どの世界にも約束事を守ろうとしない輩がいる。私も、今までに、そのような心得違いをしている少なからぬ弁護士を相手にしてきた。
私の場合は、直接、当人に対し電話で注文を付けるか、あるいは、法廷内で裁判官に対し、「準備書面を次回期日の1週間前までに提出するように相手方弁護士に対し、訴訟指揮をされたい。」とお願いすることが多い。
大半の代理人弁護士は、私がこのような意見を述べると、特に異論なく了解されるので、その後は、問題なくおおむね1週間前までに準備書面を提出してもらっている。
ところが、ごく稀に、「他にも多くの事件を抱えていて忙しい」、「依頼者に書面を確認してもらっているため時間がかかる」、「他の弁護士の中には期日の当日に準備書面を出す人もいるではないか」などの、全く理由にもならない屁理屈を捏ねる事務所が現にある。
このような事務所は、「提出が遅れております。今後気を付けます」という当たり前の言葉が最初に出て来ない。まず、自分の正当性を印象付けようとして、上記のような無用の弁解を行うのである。準備書面とは、単に、自分の側の主張を相手方及び裁判所に伝えるだけのものではなく、相手方の当事者及び裁判所が、円滑に訴訟を進行させるためにも必要である。
つまり、相手方としては、裁判の期日よりも前に内容を点検して法廷に臨む必要があるのである(おそらく、裁判所も同様であろう。)。
仮にそのような根本が少しでも分かっておれば、上記のようなおかしな言い訳は出てこないはずである。逆に言えば、根本が全く分かっていないから、最初に言い訳から始まるという見苦しい態度に出るわけである。私としては、このような事務所を相手にしたときは、通常の場合以上に、依頼者の利益を図るべく、訴訟に力を入れることにしている。
Copyright (c) 宮﨑直己法律事務所.All Rights Reserved.