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弁護士日記

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最新交通事故判例紹介(その3) 民法713条と人身事故発生の責任

2016年06月22日

 高齢化社会の進展とともに、今後、高齢ドライバーが車を運転中に起こした事故の賠償責任が問われる事件が激増するのではないかと予想する。
 例えば、高齢者が自分で車を運転中に、無自覚低血糖症のために急に意識障害を起こし、そのため、自分が運転していた車を対向自転車に衝突させ、その自転車に乗っていた高校生を死亡させた場合、果たして、車を運転していた高齢ドライバーに賠償責任が発生するであろうか?
 このような場合に、なぜ、事故を起こしたドライバーの責任が問題となるのかと言うと、民法713 条という条文があるためである。民法713条によれば、責任を弁識する能力を欠く状態にある間(つまり、責任無能力の状態にある間)に、他人に損害を与えても、賠償責任を負わないと書いてある。これが、責任無能力下の行為責任は免除されるという条文である。
 したがって、車を運転中に、持病である無自覚低血糖症のために、急に意識を失って車のハンドル操作が不可能となって、対向する自転車と衝突して、自転車に乗っていた高校生を死亡させることになっても、賠償責任を負わないのではないか、という疑問が発生するわけである。
 この点について、東京地裁平成25年3月7日判決(交民46・2・319)が、明確に結論を示した。当該判決の加害者は、たまたま高齢者ではなかったが、事故以前より低血糖症を発症していた。判決は、「自賠法3条は、自動車の運行に伴う危険性等に鑑み、被害者の保護及び運行の利益を得る運行供用者との損害の公平な分担を図るため、自動車の運行によって人の生命又は身体が害された場合における損害賠償責任に関し、過失責任主義を修正して、運行を支配する運行供用者に対し、人的損害に係る損害賠償義務を負わせるなどして、民法709条の特則を定めたものであるから、このような同条の趣旨に照らすと、行為者の保護を目的とする民法713条は、自賠法3条の運行供用者責任には適用されないものと解するのが相当である。したがって、被告は、自賠法3条に基づき、本件事故による人的損害に係る賠償責任を免れない。」と判示した。
 つまり、車を運転中に、急に意識を失うなどして責任能力を欠く状態に陥っていたとしても、当人は、人身事故を起こした場合に発生する損害賠償責任を免れることはできないのである。
 特に、近年激増中の高齢者においては、車を運転中に体調が急変して車をコントロールできない状態に陥ることも決して稀ではないと考えられる。その際、たまたま自動車を他人に衝突させるなどして、他人の生命・身体を害した場合、当然に損害賠償責任を問われることになる。したがって、自賠責保険のほかに、万が一の事態に備え、いわゆる任意保険(自動車保険)に加入しておく必要があることは、高齢ドライバーにとっては、常識と言えよう。

日時:13:57|この記事のページ

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