今回の依頼者は、愛知県内の金融機関に勤務されている若手行員である。仮に、名前を佐藤さんと呼ぼう。佐藤さんは、平成19年の冬に、愛知県の某市内をバイクに乗って顧客回りをしていた際に、前方から急に右折してきた車にはねられて道路に転倒し、頭蓋骨を骨折する重傷を負われた。幸いにも、頭部の当たり所が重要部位をそれていたため、大事に至らずに済んだ。そして、自賠責保険の後遺障害等級は、12級13号であった。
佐藤さんは、できるだけ話合いでの解決を望まれたので、当職が代理人となって、平成21年の夏に、日弁連交通事故相談センター愛知県支部(以下「愛知県弁護士会」という。)に対し、交通事故示談あっ旋の申立てを行った。愛知県弁護士会での交通事故示談あっ旋では、担当の弁護士2名から、ほぼ適正な金額のあっ旋案を出していただいた。しかし、損保会社の態度は硬く、示談あっ旋案をまじめに検討する態度がうかがえなかった。その後、同年10月に、損保会社の方から、最終回答があった。最終回答額は、361万円であった。
当職は、その数字をみて、「損保の担当者は何も分かっていないのではないのか。これでは全然問題にならない。」と感じた。そこで、示談あっ旋の申立てをすぐに取り下げ、同年11月24日に、名古屋地方裁判所に提訴した。名古屋地裁の裁判は、平成22年1月に第1回が開始された。そして、同年5月に原告(佐藤さん)および被告(加害者)双方の尋問が行われた。その後、裁判所の方から、「和解で解決しませんか。」という打診があったので、原告である佐藤さんとしても、これに応じることにした。
本年6月に裁判所から和解案が提示された。1653万円であった。依頼者の佐藤さんにとって、その金額は想定内の金額であったので、裁判所からの和解勧告に応じることにした。他方、被告(加害者)の代理人からも、その和解勧告額を受諾するとの回答があった。正式の和解は、本年9月上旬にあるが、ここに至って、事実上、本件は決着をみたのであった。
思うに、交通事故紛争については、愛知県弁護士会における示談あっ旋手続で解決される事件が相当数にのぼると聞いている。実は、本件の場合も、示談あっ旋の場で解決していた可能性もあった。損保会社の方が、事態をよく見極め、裁判になった場合に裁判所から示される可能性のある金額を推定し、その金額を何割か下回る金額で示談に応じるとの姿勢を示しておれば、示談あっ旋の場で、本件も解決していた可能性が高かった。
ところが、損保会社は、361万円という問題外の非常識な金額を回答したために、被害者に提訴の決意を固めさせてしまったのである。仮に、当職が損保会社の代理人であったとしたら、弁護士会の示談あっ旋の場で、1200~1300万円あたりでの示談解決を実現していたのではないかと思う。
以上、佐藤さんが受領するべき損害賠償金額は、弁護士会の示談あっ旋で損保会社が示した金額の4.5倍になった。結果的にみれば、佐藤さんとしては、提訴したことは正解であった。
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