平成22年の秋に依頼を受けた交通事故訴訟事件の判決がこのたび確定し、賠償金額が、損保会社の最終提示額の2.4倍になった。
この事件は、公務員である山本さん(ただし、仮名である。)が、国道をバイクで走行中に、交差する道路からわきみ運転をしてきた男性の車と衝突して、大けがを負い、自賠責保険によって障害等級7級の認定を受けたという事件であった。
当初、損保会社は、賠償金として988万円という非常識ともいえる低額を提示した。これに対し、山本氏が自分で調べたところ、その金額は極めて低額であることが分かり、金額の増額を求めた。すると、損保会社の担当者は、最終提示額として2898万円を示した。
しかし、それ以上の増額は困難であるとして交渉は進まず、山本氏は、当事務所にご相談をされたのである。これに対し、私は裁判での解決をお勧めした。山本氏はこれを了解され、さっそく平成22年の秋に裁判が始まった。
ところで、名古屋地裁の判決は、平成23年11月にあり、主文は3837万円であった。確かに、損害賠償金額は、損保会社の最終提示額よりも1000万円増えた。提訴した成果はあったのである。
しかし、この名古屋地裁の判決には重大な欠陥があった。判決は、山本氏が公務員であることを主たる根拠として労働能力喪失率を25パーセントしか認定しなかったのである。
これには、山本氏も驚かれたし、弁護士である私も「なぜ、25パーセントなのか?」と強い不満を覚えた。なぜなら、後遺障害等級が7級ということは、自賠責保険によれば労働能力の喪失率は原則的に56パーセントである。
にもかかわらず、判決は、理由らしい理由を全く示すことなく、勝手に25パーセントに引き下げてしまったのである。
私としては、判決を出した裁判官が超ベテランの裁判官であっただけに、このような不当な認定に対し大いに失望した。同時に、この判決は間違いであると確信を深め、山本氏の同意を得て、名古屋高裁へ控訴したのであった。
名古屋高裁の判決は、本年3月29日にあった(判決は確定している。)。名古屋高裁民事3部は、上記名古屋地裁の判決を変更した。つまり、認定に誤りがあったことを認めたのである。名古屋高裁が認定した労働能力喪失率は40パーセントであった。私が名古屋地裁に提訴前に事前に想定した数字と全く同じであった。
また、弁護士費用を名古屋地裁は216万円しかみてくれなかったが、名古屋高裁は440万円まで増額してくれた。
これによって、名古屋地裁の判決は変更され、今回の障害等級7級の公務員の事案に対する裁判所の最終的判断は、労働能力喪失率40パーセントで決まった。
なお、賠償金の額であるが、損保会社が被害者である山本氏に対して支払う金額は、事故日からの年5パーセントの遅延損害金なども含めると、総額で7098万円となった。
結果をまとめる。山本氏が裁判を選択されたことによって、金額的には、損保会社の最終提示額に、4200万円をプラスした金額となった。また、率にすると、損保会社の最終提示額の2.4倍の金額となった。
もし、山本氏が、平成22年の秋に提訴を選択せずに示談で済まされていたとしたら、4200万円を余分に受け取ることはなかったのである。
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