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弁護士日記

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許されない愛知県保健所職員のパワハラ行為

2021年08月03日

 昨日(8月2日)のテレビ報道によれば、愛知県内の保健所に勤務する女性職員(課長職。57歳)が、部下に対するパワハラ行為を理由に、減給10分の1、3か月の懲戒処分を受けたとのことである(処分が行われた日は7月29日付けである。)。
 パワハラ行為の内容としては、複数の部下の職員に対し、「さっさとくたばれ」と暴言を吐きながら机を蹴り上げた行為のほか、他の職員に対し、「もう来ないでください」と言って決済文書を放り投げたというものである。県の調査に対し、保健所内で合計で6名の職員がパワハラ行為を受けていたとのことである。また、この女性は、保健所内で新型コロナに関する業務に携わっていたといい、本年7月から2か月の年次休暇を取って現時点で連絡が付かないという。
 この記事を見て、愛知県の処分は、いかにも軽すぎると感じた。以下、この事件を塩野宏著「行政法 Ⅲ(第5版)」を参考に考察する。
➀ 公務員は、国家公務員であろうと、地方公務員であろうと、「全体の奉仕者」として公共の利益のために勤務する義務を負う(地公法30条)。これが基本である(塩野342頁)。また、地方公務員はいろいろな義務を負うが、特に、今回の事件に関連する義務としてあげることができる義務は、法令(条例に基づく職務規程が含まれる。)遵守義務(地公法32条)および信用失墜行為の禁止(同33条)である。
➁ 今回懲戒処分を受けた問題職員は、上記のとおり部下に対し、暴言を吐いている。このような行為は、同じ職場に勤務する他の職員の円滑な職務遂行を妨害する行為と捉えることができるため、法令遵守義務に違反すると解釈できる。また、暴言を浴びせる行為自体が刑法で禁止される侮辱罪の実行行為に該当すると解することもできる(刑法231条)。決済書類を放り投げる行為も、同じである。問題職員は、課長という地位にあったのであるから、業務の遂行に努めるべき立場にある。ところが、部下が持ってきた決済書類を放り投げる行為は、自ら職務を行うことを拒否する行動と捉えるほかない。
➂ 地方公務員は、「職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない」(地公法33条)。この条文の趣旨は、公務それ自体への信頼の確保であると解される(塩野361頁)。信用失墜行為の代表例として、例えば、職員の飲酒運転行為をあげることができる。駅のエスカレータにおける盗撮行為も同じである。今回の行為は、確かに職場内における行動にすぎず、一般公衆の目に直接触れるものではないが、しかし、仮に職場でそのような問題行動が繰り返し発生しているのであれば、そのような悪い噂が地域社会に広まることは容易に想定され、結果、保健所の職務について名誉ないし信用を毀損する危険は生じるというべきである。
➃ 昨今、民間企業においてもパワハラ行為の根絶が叫ばれている(被害者が受けた被害の程度次第では、労働災害となることもあり得る。)。しかし、今回の愛知県の処分は、そのような世の中の流れを汲み取っているとは到底考えることができない。極めて甘い(軽い)処分であると言わざるを得ない。テレビ報道によれば、この問題職員は、2か月の有給休暇をとって連絡が付かない状態にあるという。折から、武漢ウイルス(現在では変異デルタ株)の感染拡大が止まらない今日において、こともあろうか保健所の課長職にある職員が、2か月もの長期休暇をあえて取得し、また、現時点で愛知県の当局も本人と連絡が付かないという状況は、極めて異常というほかない。たとえ、労働基準法の保障する年次有給休暇の取得という法的根拠があったとしても、この女性の上司に当たる保健所長は、時季変更権を適切に行使し、年休取得期間の変更を求めるべきであった。上司に当たる保健所長は一体何を考えていたのであろうか?
 仮に上記のような異常事態を全て考慮した上で、上記の軽い懲戒処分を行ったということであれば、愛知県の人事当局は大きな間違いを犯したと断定せざるを得ない。問題職員は、事実上の職務放棄(職場放棄)をしていると法的に評価せざるを得ず、より重い処分(例 停職3か月の処分)が相当であったと考える。ここは、いよいよ愛知県行政の最高責任者である大村知事の出番である。

日時:15:51|この記事のページ

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