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弁護士日記

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予想どおりの判決が出た

2022年01月29日

 本日(2022年1月29日)付けの岐阜新聞を見ていたら、私が以前から注目していた二つの事件について、名古屋高裁と岐阜地裁の判決内容が短く掲載されていた。記事として紹介される判決文は、あくまで法律の素人である新聞記者が自分の判断で抽出したものにすぎないため、一番重要な箇所が抜けている可能性がある。しかし、判決の要旨は短く示されているので、裁判結果自体は分かる。
 第1の判決は、名古屋高裁が本年1月27日付けで出したものである。この事件は、岐阜県土岐市図書館で迷惑な利用行為を繰り返していた女性に対し、同図書館が入館禁止処分を行ったところ、それを違法だとして女性が入館禁止処分の取消しを求めていたものである。女性の訴えを受けて、一審の岐阜地裁は、2021年7月21日にその訴えを認めた(2021年7月22日発行の岐阜新聞を参照)。理由は、知識、情報などを得るという憲法上の価値を根拠なく侵害しており、違法というものだった。
 しかし、この岐阜地裁判決はおかしいという指摘を、既に2021年7月23日付けの私のブログ(弁護士日記)で行った。そして、そのブログの中で「土岐市としては、必ず名古屋高裁に控訴」せよと注文を付けておいた(なお、私と土岐市当局とは何ら関係がない。)。おそらく土岐市としても、この判決には誤りがあると判断したのであろう。控訴期限ぎりぎりの同年8月6日になって一審岐阜地裁判決を不服として控訴したようである(2021年8月7日発行の岐阜新聞を参照)。
 今回の名古屋高裁判決は、上記新聞記事によれば、迷惑行為を繰り返した女性は「警告を受けたにもかかわらず多種多様な問題行動に及んだ。利用を全面的に禁止することが必要かつ合理的だった」と理由を述べた。つまり、一審の岐阜地裁で勝った女性が、控訴審の名古屋高裁で逆転敗訴したということである。この名古屋高裁の判決は、論理としてまともであり、また、一般社会常識にも合致しており、私としては支持できる。
 仮に名古屋高裁までもが、岐阜地裁と同様の誤った判決を下していたら、公の施設である公立図書館の円滑な運営は事実上不可能となってしまう。そして、場合によっては閉館の結果を招き、地域住民全体の教養レベルが下がって地方衰退の一原因となるおそれもあったのである。
 思うに、世の中には社会常識を知らない人間が多すぎる(この点は学歴や職業を問わない。電車内でタバコを吸っていた男が、それを注意した乗客に対し暴行を働き、重傷を負わせた事件が最近もあったようであるが、この男が見本である。このような輩には最大限に重い実刑判決を言渡し、苦痛を与える必要がある。)。
 この社会は、法律に違反しているか否かの問題以前に、社会常識やマナーを守ることでお互いが平穏な社会生活を円滑に送ることができるという仕組みになっている。今回の女性も、おそらく自分個人の価値判断では、「自分の行動には全く問題がない」、「私は何ら悪いことはしていない」あるいは「規則を振り回す図書館の方に問題がある」などと考えていたのではなかろうか。
 しかし、図書館から入館禁止という処分を受けたことがきっかけとなって、裁判所から、図書館がその女性に対して行った入館禁止処分は適法、つまり許されることであるという司法判断が出されることになった。仮にこの女性が、社会常識やマナーを弁えている人物であれば、最初から問題行動をとることもなく、裁判にまで発展することもなかったのではなかろうか。
 第2の判決は、岐阜地裁が本年1月28日に出したものである。運送会社の空ぶかし騒音等について、被害を受けた住民(計7名)が慰謝料等の支払いを求めて運送会社を訴えていたものである。この事件で訴えられた会社は食品運送を取り扱う運送会社であり、2020年9月まで岐阜県瑞穂市内に事業所があったようである(2021年3月5日発行の岐阜新聞参照)。
 この会社は、長年にわたってその地で荷下ろしや洗車を行っていたが、周辺の住民はその騒音に悩まされていた。そこで、住民らは、2019年11月、岐阜地裁に対し騒音差止の仮処分を申請した。岐阜地裁は、翌年に当たる2020年2月に、「深夜・早朝に50デシベルを超える騒音を出してはならない」という決定を出した。しかし、この会社はその決定に従おうとはしなかったため、住民側は、会社が決定に違反して騒音を出した場合に金銭(制裁金)の支払いを求める申立をした。すると、地裁は、同年4月「違反行為1日に付き2万円を支払う」という内容の決定を出した。
 その意趣返しかどうかは分からないが、今度は、会社の従業員らが周辺住民の自宅前で車の空ぶかしを連日のように行うようになった。そして、今回、会社従業員の一連の行動を違法と認めた判決が2022年1月28日に出た(2022年1月29日発行の岐阜新聞参照)。岐阜地裁は、合計で約259万円の支払いを会社に命じた。騒音被害を受けた住民側が勝訴したのである。当たり前の判決であった。ただし、今回の騒音と、住民に発生したうつ病との因果関係は認めなかった。
 このように他人(加害者)から迷惑を受けた住民が、その他人の責任を追及するためには、訴訟という面倒な手続を踏む必要がある。しかし、弁護士費用や手間暇を考えると、計7名の合計賠償額が259万円では、いかにも安すぎる(7人で割れば、一人当たり平均37万円にすぎない。)。おそらく、これまでの訴訟費用ですべてが消えてしまうのではなかろうか?経済的には何らプラスになっていないということである。これでは実質的救済にはならない。賠償額の桁が一桁違うのではないか?2590万円でもよいのではないか。
 この点において、日本の司法制度(民法)には重大な欠陥がある。こんな少額では加害者に対する制裁にならない。また、同種事案の発生を防止する効果もほとんどない。抜本的法改正が必要である(懲罰的賠償制度の導入)。もちろん、従来の最高裁判例や学説(通説)から、この金額でも仕方がないというのが一審裁判官の胸の内かもしれない。しかし、一般に生活妨害事案に対する慰謝料の金額は、双方の被害バランスをとる意味で、もっと高額でもよいはずであり、我々弁護士が努力しなければならない今後の課題と言えよう。
 ただ、加害者側の運送会社は、2020年9月に岐阜県瑞穂市内から、東方に約15キロメートル離れた同県各務原市内に移転したようであり、住民側の代理人弁護士も語っていたように「静かな環境を取り戻せたことは一連の訴訟の成果」と言えよう。周辺住民から強く恨まれた会社(黒い歴史を背負った企業)が、その後無傷で済むはずはなく、訴訟が提起された段階で、将来のある時点における事業所移転は不可避だったと言えよう。
 被告とされた運送会社としては、最初に周辺住民から苦情を言われた時点で、できる限り誠意ある対応をとっておけば、これほど事がこじれることはなかったであろう。その意味で、会社の対応方針を最終決定できる立場にある会社代表者(社長)の責任は重大と言える。
 

 

日時:13:45|この記事のページ

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