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弁護士日記

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弁護士法72条の規制と研修会講師業務の関係

2022年05月20日

1 弁護士法72条は、弁護士資格を有しない者(非弁護士)による法律事務の取扱いを禁止している。この規定は、弁護士の資格を持たない者が、報酬を得る目的で、かつ、業として訴訟事件その他一般の法律事件に関し、鑑定、代理等を行うことを禁止している。この規定に違反すると、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられる(弁護士法77条)。
2 立法趣旨は次のようなことである。弁護士として職務を行うためには、原則として、高度の法律知識を要する司法試験に合格する必要があり、また、入会を許された所属弁護士会による規律を受けるなど厳格な行動規範が定められている。これは、基本的人権の擁護及び社会正義の実現という高度の職務を果たすための最低限の条件である。
 ところが、そのような能力と規律を受けない一般人が、仮に弁護士業務を自由に取り扱うことができるとされれば、社会的な安定を損ない、また、法的秩序を著しく乱すことになりかねない。ちょうど、医師免許を持たない者(ニセ医者)が医療行為に従事するようなものである。そこで、弁護士法は、他人の法律事務に介入する資格を持つ者を厳しく制限している。
 ただし、弁護士法以外の法律によって取扱いを認められている法律事務については、その法律の定めるところによる。例えば、司法書士は、他人を代理して登記申請書を有償で作成することができるし、また、作成した申請書を代理人として法務局に提出することもできる。さらに、認定司法書士の場合は、訴額140万円を超えない簡易裁判所の民事訴訟事件について、他人の代理人となることが認められている。
3 弁護士法72条によれば、一般の法律事件について、例えば、鑑定することが原則として禁止される。ここでいう「鑑定」とは、法律事件について法律的な観点から意見を述べることである。例えば、Aという人物が友人Bに金300万円を貸したが、Bが返済期限になってもお金を返済しようとしない場合に、困ったAが、弁護士Cに対し、お金を取り戻すための法的方法を尋ねるような場合がこれに当たる。いわゆる有料法律相談である。
 仮にAが弁護士資格を持たないDに対し法律相談を依頼し、これに対しDが有料で回答したような場合は、Dの行為は、いわゆる「非弁行為」に該当し、違法となる可能性がある。可能性があるとした理由は、Dの行為が「業として行った」ものとは言い難い場合には、つまり反復継続して行うものではないと認められる場合は、非弁行為には当たらないと解されるためである。また、例えば、法学部の学生が、一般市民を対象として定期的に大学の構内で「無料法律相談」を行うこともある。このような定期的な法律相談会の場合、反復継続が予定されていることはそのとおりであるが、しかし、学生による相談会は完全無償であって報酬を得る目的を欠くため、非弁行為には当たらないと解される。
4 では、有料のセミナーにおいて、講師が法律の解説を行うことには問題がないであろうか?法律の解説といっても、具体的な法律問題ではなく、あくまで事例として解説するのであれば問題ないと言える。大学において法学部の教授が、学生に対し授業を行う際に、過去に発生した事件に関する具体的な判例を取り上げて法的評価を交えて解説するのと同じであり、問題ないであろう。
5 では、弁護士資格を持たない講師が、農地法のセミナーを行ったが、セミナーの中で、受講者の方から「今、私の自治体では、かくかくしかじかの問題が起きて苦慮していますが、どう対処するのが正解か、ここで講師の法的見解を示してください」と質問された場合は、気を付けなければならない。なぜなら、そのような質問は、具体的な法律事件(ここでいう「事件」に該当するためには、別に訴訟や調停にまで発展している必要はない。)に関するものであり、しかも、講師の法的見解を問うているからである。その場で講師が答えれば、それは法的見解を開示したということになり、弁護士法72条の「鑑定」に当たることになると解される。講師が弁護士資格を持っていれば、最初から問題となる余地がない。
 しかし、例えば、講師が行政書士の資格しか持っていないような場合、行政書士は鑑定を行う法的資格がないため、いわば素人が法的見解を述べたことになる。しかも、セミナーが有料参加の場合、講師も主催者から所定の講師料を受け取っているのが普通であり、「報酬を得る目的」があったと認定できる。また、セミナーの性格として、受講生から出た同様の質問には原則として回答を行うものとするという方針が示されている場合は、当初から反復継続が予定されているため「業として」行っていると解することができる。
6 以上のことから、セミナーを運営する主体(主催者)は、弁護士以外の者が講師となって法律問題を扱うセミナーを開催する場合は、後になってから「まさか責任を追及されるとは考えてもみなかった」というようなコメントを出すことがないよう、慎重に準備する必要があろう。

日時:20:21|この記事のページ

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