最近では会議やセミナーを対面ではなく、オンライン方式で行うことも一般化してきたようである。しかし、私の持論は、学ぶ要素の大きいセミナーについては、対面方式でないと余り効果がない、というものであり、その主張は不変である。
そこで、検討に入る前に双方の方法について長所と短所を見ておく。
最初に、対面方式の長所は、講師の側からすると受講者の反応を正確に捉えることができるという点である。受講者の顔を見て、その場で話の内容が理解できているか否かを推測し、話の速度を速めたり、逆に遅くすることができる。あるいは内容をより分かりやすくすることも可能である。
また、会場に講師と受講者が一堂に会しているのであるから、その場で、質問を受け付けることも可能である。余談であるが、私の経験からすれば、受講者の出す質問を聞けば、その受講者のレベルがおおよそ分かってしまう。実力のある受講者は、それなりに良い質問となっているレベルの質問をしてくる。他方、もともと実力がない受講者からは、枝葉末節的な質問やピントが外れた質問が出てくる。
一方、対面セミナーの短所はほとんどない。強いてあげるとすれば、講師の自宅とセミナー会場が離れている場合に、到着までの時間がかかることであり、また、多額の交通費が発生することである。
次に、オンライン方式であるが、長所と呼べるものはほとんどない。強いて言えば、セミナーの会場まで赴く時間と交通費が節約できることくらいである。
一方、短所は多い。受講者の側に立った場合、なによりも臨場感がゼロであるから、気持ちが集中できない。集中力がない状態で、パソコン上の画面を見て、講師の話す内容を学習しようというのであるから、その効果は、対面の場合と比較して極めて少ないということができる。ニュース報道などでも、今年3月に大学を卒業した学生の、大学の授業がオンラインであったことが一番の不満だったという感想を耳にする。
また、オンラインの形式にもよるが、オンライン方式でセミナーを受講している者は、ただ単に講義を聞くだけで、講師に対し、その場で質問をすることができないという形式の場合は最悪である。
他方、講師の側に立っても、受講者の反応が全く分からないのであるから、自分が話している内容が相手に分かってもらえているのか否かを確かめる術がなく、非常に不安である。あたかも、人が誰もいない静まり返った深山の中で、正面にある崖に向かってひとりで呪文を唱える修行者のようなものであり、味気ないことこの上ないであろう。自然、やる気も失せてしまいがちになるのではなかろうか。
このように、セミナーは、会場に講師と受講者が集まって、その場で生で行うのが基本であり、原則であると確信する。オンライン方式は、例外中の例外である。コロナの猛威もようやく低下した。これからのセミナーは全て対面方式に戻すべきである。
また、オンラインセミナーには、主催者から見た場合、経営上(商売上)の重大リスクがある。どういうことかと言えば、上記のとおりオンラインセミナーには短所ばかりが目につくが、仮に同じような内容のオンラインセミナーが全国的に並列しているような場合、受講者の方からすれば、主催者の住所が、東京であろうと名古屋であろうと福岡であろうと条件は一緒ということになるという点があげられる。その結果、講師陣の顔ぶれなどから判断して自分にとって一番費用対効果の観点から好ましいと思われるオンラインセミナーが選択され、一方、二番手・三番手の内容のオンラインセミナーには誰も来ないという結果となる。つまり、勝ち組と負け組の区別がハッキリするということである(しかも、双方の格差は年々拡大すると予想される。)。
例えば、名古屋に住む受講者が、農地法関係のセミナーをオンラインで受講しようと考えた場合、同じようなセミナーを名古屋と東京で行っている場合、昔であれば、交通費や宿泊費の関係で、やむなく名古屋で受講せざるを得なかったが、オンラインセミナーの場合、どこに住んでいようと、交通費と宿泊費は発生しないということから、より費用対効果が高いセミナーの方に参加する可能性が高くなる。仮にそれが東京で開催されるものの方であった場合、名古屋の主催者は、非常に苦しくなる。場合によっては、収益があがらないため事業から完全撤退に追い込まれることもあり得る。
そうならないためには、上記の例の場合、名古屋においても対面方式のセミナーを開催し、地元の昔からの顧客(固定客)をがっちりとつかまえておく必要があるのである。これは経営判断(センス)に関わる事項であり、事業廃止に追い込まれる前に、スピード感のある方針転換が求められる。
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