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弁護士日記

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2010.3.12付け朝日社説には賛成できない

2010年03月15日

 私は、何十年も前から朝日新聞を購読している。今後も購読を継続するつもりである。今回は、朝日新聞のある社説について批判的意見を述べたい。その社説とは、2010年3月12日付けの朝刊に掲載された社説である。タイトルは「司法改革を止めるな」である。しかし、私は、この社説内容には賛成できない。
この社説は、今回、日本弁護士連合会の新会長として宇都宮健児弁護士が選出されたことを受けて書かれたもののようである。宇都宮弁護士は、最近、司法試験合格者が激増したことによって弁護士の質の低下などのいろいろな問題が生じているとの認識の下、司法試験合格者を1500人程度に抑えることを公約として当選した。
 これに対し、朝日の社説は、「改革を根幹から覆すような主張である」、「あまりにも内向きの論理だ」と批判した。しかし、この批判は事実認識に大きな誤りがある。国民に対し誤った認識を植え付けることは弊害が大きいので、社説のどの点がおかしいかを以下に分かりやすく指摘する。
 社説は、司法試験合格者を1500人程度に抑えることは、司法改革に反することであるとの基本的立場に立っているらしい。政府が2002年3月19日に閣議決定した年間合格者3000人というプランを実行することこそ司法改革に合致するとの認識に立っているようである。ところが、年間合格者を3000人とすることが、なぜ司法改革に資するのかの点について説得力のある説明はない。
1 社説には、地裁支部の管轄区域のうち弁護士ゼロ地域が2か所あり、また、弁護士が1人しかいない個所が13地域あるということが挙げられている。しかし、弁護士過疎地域を解消するためには、弁護士を毎年激増させる必要は全くない。せいぜい数十人程度の増加で済む話である。
2 社説には、法テラスへの問合せの電話が2008年度は28万8千件にのぼったということも書かれているが、法テラスを利用することができるのは、経済的な資力が不十分な人々に限定される。しかも、法テラスを利用して弁護士に委任して裁判した場合、弁護士費用は、原則として、後日、償還つまり月賦で本人が支払う必要がある。したがって、司法試験合格者を毎年3000人にしようがしまいが、余り関係がない話である。
3 社説には、起訴前の被疑者にも弁護士による国選弁護が開始されたから、弁護士を必要とする人々がたくさんいるとも書かれている。しかし、国選弁護の費用は、国費から賄われるのであって、司法試験合格者が増加して被疑者国選が増加することによる支出は、最終的には国民が税金として負担することになる。では、一般国民の大多数はそのことについて快く賛成しているのであろうか?という疑問が生じる。
4 社説には、司法制度改革は、「幅広い国民の要請をうけて、日弁連、法務省、最高裁の法曹3者で進めてきた経緯がある」とも書いてある。しかし、当時、本当に、幅広い国民の要請があったのかという疑問がある。国民世論として司法試験合格者を年間3000人にまで増加させることが必要だという世論の有無について実証する必要がある。しかし、私の認識では、そのような国民の声が存在したとは思えない。また、日弁連の内部でも、会員数の多い東京3会や大阪の意見をもって多数決によって日弁連の総意とみなした経緯がある。すくなくとも、地方の弁護士会の意見は、余り反映されていなかったように感じる。
 また、現時点で世論を見た場合、例えば、医師不足を訴える国民の声は非常に多いが、弁護士不足を訴える声は全然聞いたことがない。国民にはそもそも関心がない。
5 社説は、法曹資格者を民間企業や官公庁に就職させるよう検討すべきだとしている。しかし、そのような試みは既に行われているが、法曹資格者を社員や公務員として採用しようとする意欲が企業や官庁には実際にはほとんどない。弁護士を雇用するか否かは、企業や官庁の自由であって、日弁連から強くお願いする筋合のものではない。
 以上、この社説には根拠が乏しく、まさにお気楽な評論家的発想から書かれたものと判断して間違いないであろう。
 私見によれば、司法試験合格者の人数は、現実を冷静に踏まえた適正なものでなければならない。司法試験合格者のうち、裁判官と検察官は国家公務員であるから、国家予算の縛りがあり、必要な予算が付かない限り、増員は不可能である。これに反し、弁護士は、自由業であり、各弁護士が独立採算で生活をしている。そのような状況下で、司法試験合格者を増やすことは、弁護士人口を増やすということを意味する。
 弁護士という職業には、一般国民の権利を擁護するという社会的使命がある。そのためには、単に、「金が儲かればよい」というビジネス的感覚だけではやってはいけない職業と考える。仮に、弁護士人口の増加つまり供給が、国民からの需要をはるかに上回ることになってしまえば、多くの弁護士が、なりふり構わずビジネス一本やりに走る危険がある(現に、テレビコマーシャルでそのような現象が出ている。)。そうなった場合に、果たして普通の国民にとって利益になるのかどうか?大いに疑問がある。
 一般民事事件の事件数が一向に増えない昨今にあっては、司法試験の年間合格者は、せいぜい1200人から1500人程度が限界であろう。3000人というような数字は、現実の需要を無視した空論と断定して構わない。
 仮に、合格者3000人という増員計画が閣議決定された事実がある以上、それに縛られるという立場があるとしたら、その立場は、「国が公共事業をいったん開始した以上、途中で無駄だと分かっても、もはや中止はできない」とする一時代前の遅れた思想と同じである。しかし、そのような考え方が間違いであることは今や多言を要しない。

日時:17:07|この記事のページ

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