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弁護士日記

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日露平和条約など不要である

2018年11月19日

 最近の新聞報道によれば、安倍首相は、従来、我が国が基本としてきた北方領土4島一括返還の方針を変更し、先に2島の返還を求めるという1956年の日ソ共同宣言に沿って、歯舞群島と色丹島の返還交渉を先に進めるという方針を固めたようである。
 しかし、私は、このような動きに重大な懸念を覚える。果たして安倍首相はどのような解決策を考えているのであろうか?道筋が全く見えない。
 私見を述べる前に、いわゆるロシア専門家は、このような動きについて、どのような立場をとっているのかを確認したい。
 最初に、元外務省の分析官を務め、鈴木宗男氏とともに有罪判決を受けた経歴の持ち主である佐藤優氏は、平成30年11月18日の産経新聞の中で、「安倍首相にしかできない戦略的決断を筆者は強く支持する」として、安倍首相の考え方に賛成している。しかし、佐藤氏は、「今後の交渉で重要なのは、歯舞群島と色丹島の主権が日本にあることをロシアが明示的に認めることだ」ともいう。私もこの点が、最低ラインであると考える。この点を明記することなく、平和条約など締結することはあり得ない話である。
 次に、同じく産経新聞の平成30年11月19日の「正論」の中で、新潟県立大学の袴田茂樹教授は、安倍首相の考え方に反対する姿勢を示し、我が国が基本とする拠り所は、日ソ共同宣言ではなく、1993年の東京宣言であるとする。そして、「東京宣言の方針転換は敗北だ」と結論付ける。
 さらに、毎週土曜日の午前9時30分から放送されている「正義のミカタ」という番組があるが、その番組にしばしば解説者として登場する筑波大学の中村逸郎教授は、本年11月17日(土)の放送で、安倍首相の考え方を批判し、四島一括返還を貫くべきであると述べた。
 この「正義のミカタ」という番組であるが、専門家が時々の話題について、専門家としての立場から分かりやすく解説するという番組であり、最初から反安倍のバイアスがかかっている「何とかステーション」、「何とかモーニング」というような偏向番組よりも、格段に正確な情報を得ることができる。
 ただし、中村教授のおもしろいキャラクターからは、果たしてこの人、どこまでロシアの専門家なのか?という疑問もある(話半分で聞いた方が無難かもしれない。)。
 私の見解は、次のとおりである。
 二島先行返還という安倍首相の考え方であるが、次のような疑問がある。
 第一に、平和条約を締結した後に、二島を返還するといっても、期限については何も決まっていない。したがって、これは屁理屈となるが、返還時期については、平和条約を締結してから、1年後でもよいし、10年後でも問題ないし、100年後でも構わないということになるのではなかろうか?
 我が国の国民がイメージする「二島先行返還」とは、平和条約の締結と同時に二島が自動的に返還されるというものである。
 ところが、ロシアは、平和条約締結後に、二島を自動的に返還するものとは考えていない。我が国からすれば、実に、人を小馬鹿にしたデタラメの言い草である。
 もともと、北方四島は、歴史上、我が国以外の領土になった事実が一度たりともない、我が国固有の領土である。日本の領土を、ロシアが第二次大戦後のどさくさに紛れて強奪したものなのである。
 いわば、ロシアは、強盗である(正確には、強盗とは、共産主義の独裁者であったスターリンが支配したソビエト連邦である。ロシアという国は、強盗であるソ連から、日本から奪った被害品である四島を承継した立場にある。)。
 強盗ロシアが、自分が強奪したもの(四島)を、元の持ち主である日本に即座に返還しますので、仲直りしましょうといっているのであれば、平和条約の締結も考えてもよいであろうが、現実は全く違う。
 ロシアは、面積換算をすると、四島のうちの7パーセント程度にすぎない二島(歯舞諸島、色丹島)しか返す気がないという。しかも、返還の時期については、未定であり、今後の交渉に委ねられるという。私は、「プーチンよ、いい加減にしろ」といいたい。
 第二に、プーチンは、次のようにもいっている。「二島を返還するとしても、主権も返すとはいっていない」と。これも、我が国を馬鹿にしたとんでもない暴言である。
 普通に考えても、「返還する」という言葉は、主権も返還するということ以外にない。国内の民事事件にたとえれば、AがBに対し、「昔Bから奪ったBの所有物を、このたびBに返還する」という約束をした場合、自然に考えた場合、物の所有権をBに返還する(あるいはBに物の所有権があることを確認する。)ということである。
 ところが、プーチン流の解釈では、「物はBに返すが、物の所有権の帰属については、今後の交渉に委ねる」ということになる。こんなおかしな条件で、Bが和解(国際法では平和条約の締結)することなどできるはずがない。
 私の考える、二島先行返還論を受け入れるための条件とは、次のようなものである。
 第一に、平和条約の締結と同時に、つまり交換的に、二島の現実の返還を行うという約束である。現に居住しているロシア人の取扱いについては、我が国の法律に従って、日本に居住する外国人と同等の資格を与える。ロシアに帰国したい者は帰国すればよい。二島にこれまでどおり居住したい者については、現に不法占有する土地・建物から退去し、仮設住宅に入居してもらう。それが嫌なら、ロシアに帰るほかない。
 第二に、二島の主権が我が国にあることは、当たり前の前提である。主権が日本にあるということは、具体的にいえば、法的なトラブルが発生した場合は、日本の国内法(民法ほかの法律)が適用され、日本の最高裁判所が管轄する地方裁判所の裁判管轄権が及ぶということである。また、例えば、ロシア人による犯罪が発生した場合、日本の刑事裁判権が全面的に及び、日本の警察・検察が、捜査に当たるということである。
 仮に、ロシアが、上記の原則の一部又は全部に抵触する処理を考えているのであれば、二島先行返還の意味は全くない(今後、ロシア警察が、色丹島内で日本人が起こした刑事事件を捜査し、ロシア人裁判官が判決を言い渡し、有罪が確定した囚人は、寒いシベリアの刑務所で服役するという場面を想像すると、日本人としては、決して認められないという実感が湧くはずである。)。ロシアが考える条件下での平和条約など、絶対に締結してはならない。
 今回、安倍首相は、歴史に名を残したいという下心があるのではないか?私はそのように推測している。安倍首相としては、歴史に名を残すためには残された時間があまりない。かなり、あせっているのではないか?狡猾極まるプーチンが、それを見逃すはずはないのである。
 しかし、仮にそのような「私心」を安倍首相が密かに持っているといたら、行政権のトップから直ちに降りるべきである。国益を侵害しようとするような人物に、我が国のかじ取りを任せることはできないのである。
 結論をいうと、ロシアとの交渉は、たとえ1000年かかろうとも、四島一括返還以外にない。

日時:14:20|この記事のページ

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